妻の病 レビー小体認知症(2014年・日本)
「生きなきゃ…二人でよう頑張った」
夫や妻が認知症になったとき、あなたは連れ合いにどんな世話をしたいと思いますか、あるいはしてほしいと考えますか。高知県南国市出身の幼なじみ同士のカップル石本浩市さん、弥生さん夫妻の場合は、レビー小体型認知症を患った妻の介護に夫は10年間明け暮れました。
弥生さんは2004年に統合失調症との診断を受けていましたが、医師(小児科)である浩市さんは認知症ではないかと疑います。そして07年、やはり幻視・幻聴や記憶障害のある若年性のレビー小体型認知症だと分かりました。小児がん治療や地域医療に取り組んで多忙の浩市さんに妻の介護が加わったのです。過労はそんな彼に重くのしかかり、気が付いてみれば浩市さんはうつ病にかかっていました。
とはいえ、彼も手をこまねいていたわけではありません。発症以来、妻の日常をカルテのように手帳へ記録する一方、いつも二人の会話を心掛け、不安に陥る妻を励まし、仕事を続ける苦闘の日々でした。
そんな中、弥生さんが病気になったことで彼女がどんな人なのか分かったことに浩市さんは気づきます。認知症になってからも一人の世界でタンゴの名曲ラ・クンパルシータを口ずさみ、夫に笑顔を向ける明るく優しい性格。夫がそばにいてくれさえすれば気持ちが落ち着き、彼を心から頼りにし愛していることも伝わってきました。2人の故郷で小児科医院を開く夢を実現し支えてくれた彼女は人生のベストパートナーでした。
認知症はその人の記憶のすべてを奪うのではなく、また感情面に限ってみればかなり残っていることが分かっています。映画の中でも二人が通った小学校の卒業式に招かれ児童たちと校歌を一緒に歌う感動的な場面が出てきます。式のあと関係者へお辞儀をし丁寧なあいさつを忘れないなど、培ってきたその人らしさもうかがえます。
「生きなきゃ……二人でよう頑張ったと思う」
「うん、生きなきゃ」
映画のラストに交わされるこの会話に胸を打たれます。バンドネオンが奏でる切ない音色とラ・クンパルシータのメロディーがお二人の懸命な生き方と重なって、いまも耳の中に流れています。
石本浩市さんは映画完成後の2017年2月、65歳で急逝されました。それから4年たっていますが、このドキュメンタリー映画を全国各地で自主上映するグループが後を絶ちません。映画の中でも浩市さんは自分の経験を後に続く人たちに伝える必要があると語っています。上映を希望される方は本作品の監督である伊勢真一さんのオフィス「いせフィルム」にお問い合わせください。ise-film@rio.odn.ne.jp
2021年8月