スーパーノヴァ(2020年・イギリス)

(C)2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

 主人公の2人は作家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)とピアニストのサム(コリン・ファース)。ユーモアと文化をこよなく愛する20年来の恋人同士です。

 ところが、タスカーが抱えた認知症は、この上なく大切な2人の思い出と、寄り添うはずの未来を消し去ろうとしていました。最後までともに生きることを願いながらも、自分のことも分かってもらえなくなるかもしれない厳しい現実とのはざまで葛藤するサムと、愛しているからこそ2人の関係の終わりを望むタスカー。かけがえのない思いのために、悩みぬいて選んだサムの決断には見る者に迫るものがありました。

 この映画のタイトル「スーパーノヴァ」(超新星)の意味はタスカ—が夜空を見ながらサムのめいに語り掛けるセリフの中にありました。「星はその一生を終えるとき、花火みたいに大爆発するんだって。まぶしい光を放ち粉々に吹き飛ぶんだ」。死を意識しながらも冷静に運命と向き合うタスカ—の人となりがうかがえる場面です。

 2人が出会った思い出のイギリス湖水地方の美しい風景もこの映画を魅力的なものにしています。サムを歓迎するパーティーがサムの姉一家の呼びかけで友人らが集まって開かれた際、体調が悪く上手にスピーチができないタスカーに代わってサムが自分あてのメモを読み上げます。信頼する友への感謝と病の進展を懸念する苦しい胸の内が伝わってきてこみあげるものがあります。

 映画はサムとタスカ—が旅に出る前にそれぞれ思い描いていた結末の通りにはなりませんでした。観客をドキドキさせる演技が続きますが、『英国王のスピーチ』のコリン・ファースと『ラブリーンボーン』のスタンリー・トゥッチという名優2人の抑制の利いた演技あってのことと思います。

 さらに付け加えれば、見た目は今まで通りでもセーターをうまく着られない、スピーチ原稿が読めないなどタスカーのわずかな変化まで脚本に取り込むことで感じる作品の深みや監督の熱量にひきつけられた他のキャストやスタッフの頑張りも大きかったでしょう。 必見です。

 『スーパーノヴァ』は全国順次公開中。また12月22日よりDVD、ブルーレイが発売予定。
問い合わせは 映画『スーパーノヴァ』公式サイト (https://gaga.ne.jp/supernova/) へ。

2021年10月