「春江水暖」(2019年・中国)
母の介護 4兄弟の物語
舞台は再開発の真っただ中にある中国の杭州市。顧(グー)家の家長である母の誕生日を祝う宴席で主賓の母が脳卒中で倒れます。幸い対応が早かったので一命は取り留めますが、母の認知症が少しずつ進み、だれが彼女の介護を担うのかという問題が出てきました。
彼女には「黄金大飯店」というレストランをやりくりする長男から始まって、漁獲高が不安定な漁師の次男、ダウン症の息子を育てながら賭け事に夢中の三男、気ままな独身生活を送る四男まで、それぞれが事情を抱えており、一家の親戚づきあいは連れ合いまで巻き込んでぎくしゃくし始めます。
兄弟が多ければ誰が母親をみるのかはよく聞く話で、身につまされる人もいるでしょう。グー・シャオガン監督は一人一人の事情を丁寧に描きながら激動の中国に生きる大家族の物語を一巻の山水画を眺めているかのように見せてくれます。
この作品の魅力の一つは認知症の母親の存在で、何もできないダメな人とは描いていないことです。長男の娘のグーシーから「誰に家を残すつもり」と聞かれると、祖母は四男の名を挙げ、「私の話を一番聞いて、よくしてくれたから」と正直に打ち明けます。また孫のグーシーも「頭の刺激になるから」と祖母に日記を手渡して、毎日つけるよう勧め「書き間違えたら直してあげる。私からの宿題よ」と気遣います。この話がよほどうれしかったのか、祖母は孫娘にとって最高のプレゼントを返すことになります。
幼稚園の先生をしているグーシーには付き合っているジャンという恋人がいます。小学校の先生で性格は真面目。しかし火の車のレストランを立て直すには裕福な家庭と縁組させるしかないと考える母親は猛反対で、親戚を集めた〝親族会議〟でも考えを変える気配はありません。それどころか「家から出て行け」と最後通牒(つうちょう)まで突きつけます。事前にグーシーから相談を受けていた祖母は「頭は前より働かないけど聞いて。二人を追い出さないでほしい。本人が好きなら、それでいい。私は親の決めた縁談に従い、2度結婚したが、人生は一度だけ。好きな人と一緒にさせてやりなさい。さもないと一生苦労する」。
何も聞いていないようで、ちゃんと聞いていて実はわかっている祖母の魂の叫びのように聞こえます。ほどなく亡くなった祖母の弔いの後、それぞれの人が故人の生前の様子を話しながら長い階段をゆっくりと下りていくラストシーン。そこにはもう祖母の姿はないものの、皆が彼女の気配を感じているのが伝わってきます。
「春江水暖」は動画配信やDVDレンタルで
2023年2月