「オレンジ・ランプ」(2023年・日本)

(C)2022 「オレンジ・ランプ」製作委員会

 この映画は39歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断された丹野智文さん一家の実話をもとにしています。晃一(和田正人)は自動車販売のトップ営業マンでした。ところが得意先との商談の約束をすっぽかして社長に𠮟られるなど、前にはなかった失敗が続きます。医師から病名を告げられた晃一は妻の真央(貫地谷しほり)と2人の娘を抱え不安が募るばかりです。

 そんな晃一を心配した妻の真央はなんでもやってあげようとするのですが、逆に晃一は元気がなくなっていきます。しかし、ある日、認知症本人の集まりに参加したことが真央と晃一の意識を変えるきっかけとなり「人生をあきらめなくてもいい」と気づくのです。

 たとえば晃一は行き先がわからなくなった時に「(私は)認知症です」という手書きのカードを見せて道行く人にも笑顔で助けを求められるようになりました。また晃一が妻を怒鳴ってしまった時は大いに反省し、その気持ちを忘れてしまわないよう手のひらに「怒らない」と書いておきます。夫婦といえども気遣いしすぎず気持ちを伝える勇気も必要ということでしょう。

 映画を見ていると晃一がどんどん変わっていくことに気がつきます。同時に家族や周りの人も変わってきます。晃一の職場でも同僚全員が認知症サポーター講習を受け、その証のオレンジリング(当時)を手首につけて支援をアピールしました。

 さらに、一度は退職届を出した晃一ですが社長に「本当は働きたい」と本心を打ち明けると、「続ければいい。俺の仕事はその環境を作ることだ」と思いがけない返事が返ってきて晃一を感動させるのです。もともと営業成績が良く、得意先のリストや営業のノウハウがきっちりそろったファイルを後輩らに提供するなど自分ができる努力をしたことも周りを変えていきました。部署は変わりましたが自分の体験をテーマに年間100回を超える講演もこなしています。

 不安を抱え近くの公園で一人泣く弱さも見せていた真央。その妻を見つけた晃一は「つらいときは、大丈夫じゃないといっていい。泣きたい時は泣いていい。ありのままでいいんだ」と語ります。誰もが自分らしくいられる社会こそが誰にとっても生きやすい社会なのだということを認知症が教えてくれているかのようです。

 ちなみに映画のタイトル『オレンジ・ランプ』は「小さな灯でもみんなで灯(とも)せば世界はこんなにも明るくなる」との願いが込められています。

「オレンジ・ランプ」は6月30日より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他全国公開

2023年6月