「アイリス」(2001年・英国)
愛一筋、記憶失われても
若き日に出会い激しい恋におちた男女。後年、女性が認知症になっても、夫は変わらぬ愛を注ぎ続け妻をみとりました。そうした夫妻の伝記を基にした映画です。
アルツハイマーの人を描く映画は増える傾向にありますが、話を盛り上げるためか病の進行が早すぎるだけでなく、「認知症になったらもうおしまい」「何も分からなくなる」と不安をあおるような作品も多く見受けられます。
今回の作品にそのような気配を感じないのは、妻の作家、アイリスを献身的に介護した大学講師の夫ジョン・ベイリーによる「面白さよりリアルさ」を重視した回想録が基になっているからだと思います。
アイリスには現役中の話として講演やインタビューの最中に言葉が出なくなることがあったと紹介されています。言葉を仕事にしている作家や詩人であれば、どれほどつらい思いをしたことでしょう。「書けなくなってもやる」と強がりを言うかと思えば、「書けなくなったら私はもうおしまい」と弱気を見せることもありました。そんな彼女に対する遠慮のないメディアを相手に妻を弁護するのも夫でした。「そのとき妻は体調が悪かったから」と。
若いころのアイリスは自由奔放。ところが、ジョンは男友達の多さに散々悩まされたことなど無かったかのように彼女への愛一筋です。ライバルは多いと知っていてもなお彼女に尽くしたピュアな愛。後半穏やかな表情で並ぶ2人のカットからはたとえ記憶が失われても深いところで愛は続いていると信じたくなります。
リチャード・エア監督。若き日のアイリス役にケイト・ウィンスレット。老いてからはジュディ・デンチ。
『アイリス』は動画配信やDVDレンタルで。
2023年10月