「マイ・ライフ マイ・ファミリー」(2007年・米国)

 認知症の人が映画に出てくる作品が増えています。たとえば日本では高齢者(65歳以上)の4人に1人が認知症またはその予備群と言われますから映画のテーマとしてだけでなく背景にもっと登場するのも当たり前かもしれません。

 ただ、病気の進行をわざと早くして、観客の涙を誘おうとするような作品もあり、病気を誤解させることになります。本作品ではタマラ・ジェンキンス監督がリアルさにこだわったためか家族には正視できないシーンも含まれています。

 たとえば認知症の進んだお年寄りが部屋の壁に自分の便を絵の具代わりに塗りたくったり、助け合わねばいけないはずの家族同士が怒鳴り合ったりする場面です。それでも映画を見た後でほっこりとした気持ちにさせられたのはなぜだったのでしょう。

 独身を謳歌(おうか)する大学教授の兄ジョンと、契約社員の身で脚本家を目指す妹ウェンディのサべージ兄妹。それぞれニューヨークでより良い仕事を得ようと努めていた彼らに、父のレニーが認知症だという連絡が入ります。しかし2人は自分たちの経済状況に加え、かつて父親から受けたむごい仕打ちが今もトラウマとなっていました。今や他人同然の父の面倒を最期まで見ることができるのか、葛藤は募るばかりです。

 仕事と介護とみとりという三重苦。悪戦苦闘する中で、父と触れ合ううちに、いつの間にか父のための施設を探したり、部屋の明かりやベッドメークを気にしてあげたりする2人に変わっていきました。重いテーマながら2人のラストシーンの会話に救われる思いがしました。

 2007年に公開されたこの映画は介護離職、ヤングケアラーなど仕事や学業との両立が社会問題になっている今の日本でも考えさせられる作品です。

 「マイ・ライフ マイ・ファミリー」は動画配信やDVDレンタルで。

2023年12月