「『わたし』の人生 我が命のタンゴ」(2012年・日本)

 精神科医であり作家でもある和田秀樹氏が監督となり、認知症の父親・修治郎(橋爪功)と、その世話に明け暮れ追い詰められていく娘・百合子(秋吉久美子)を描いた2012年の作品です。原作の作者でもある和田氏が認知症をどう捉え、監督としてどう表現するのか興味のあるところです。

 ニュースキャスターから大学教授へ転身した百合子は毎日充実した日々を送っていました。ところが妻が急逝した直後に、元大学教授だった修治郎が警察に保護されたという連絡を受けます。その後も万引きや痴漢行為が続くようになり、百合子は父に異変が起きていることに気付きます。専門医の診断で父親は認知症と分かり、病状は進行していると告げられます。

 仕事と介護の両立に悩んだ百合子は、あちこちの老人ホームのパンフレットを取り寄せ、何度も入所を打診しますが、その都度拒否され、心身ともに疲労困憊(こんぱい)していきます。そんなある日、施設見学をしていた百合子は妹・実加子(冴木杏奈)がプロのタンゴ歌手であることを思い出し、それを知った施設勤務医から入所者向けのタンゴのダンス講師を依頼されます。

 実加子の指導の下、タンゴのステップを覚えようとする修治郎の姿がありました。ダンスの楽しさを知り、少しずつ明るさを取り戻していきます。

 その様子を見つめていた百合子にも心境の変化が訪れるのです。理想的ともいえるてん末ですが、介護は孤軍奮闘ではもたないこと、さまざまな他力を活用させてもらうこと、認知症の当事者や「家族の会」とのつながりの大切さなどが伝わってきます。

「『わたし』の人生 我が命のタンゴ」は動画配信やDVDレンタルで。

2024年2月