「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(2011年・英国)

女性首相の苦悩と葛藤

 2012年に公開されたこの作品は西欧で初の女性首相となり、20世紀の英国で最も長い任期を務めたマーガレット・サッチャー(メリル・ストリープ)の一代記です。

 1982年に勃発したフォークランド紛争では、保守党党首として敵対するアルゼンチンに空母を派遣し、領有権を巡る争いから一歩も引きませんでした。

 映画では、軍首脳もためらう作戦は成功し、犠牲者も少なかったと紹介されています。

 フォークランド紛争の功績で、政権の支持率も一度は跳ね上がりました。しかし、労働組合活動の制限といった政策によって労組などとの激しい対立が続き、その支持率は低下することになりました。一方、野党やマスコミからは「鉄の女」と敬意を込めて称されるようになっていきました。

 ところが彼女の死後、娘の書いた回顧録によって、サッチャーが引退後に認知症を患っていたことが明らかになり、このニュースは世界中を駆け巡ることになりました。

 現役時代の彼女は類いまれなエネルギーを発揮し、1日4時間の睡眠で、首相という重責を担いつつ、しかも家事と両立させていたことが回顧録に書かれています。超多忙な彼女が、首相専属のコックを雇わず、日々の家族の食事を作っていたこと、大臣たちを私邸に集めて開いた会議が長引くと、手料理をふるまったというエピソードには驚くばかりです。

 映画の後半には、認知症になったサッチャーが幻視によって、先に他界した最愛の夫デニス(ジム・ブロードベント)の姿を追う場面が描かれています。希望に燃えていた少女時代から政界を引退するまでの間に、抱えていた苦悩や葛藤がいかに大きなものであったか胸が痛む場面です。しかし、最後に残るのは、大きな役目を負い懸命に生きた一人の女性と彼女を全力で支えた夫とのラブストーリーを見たという印象が強く残りました。フィリダ・ロイド監督。

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2024年6月