「おばあちゃんの夢中恋人」(2013年・台湾)

大阪アジアン映画祭提供

 2014年の大阪アジアン映画祭で受賞の実績があるこの作品の舞台は台湾。急病で倒れた祖父・奇生を見舞うため18歳の孫が毎日のように病院に通うところから始まります。

 そんな中、孫は次第に祖父が話してくれる台湾映画全盛の1960年代の体験談に引き込まれていきます。なんと祖母の美月は女優で、祖父は売れっ子の脚本家だったというのです。祖父は、映画を見たい一心で塀を乗り越えて映画館に侵入してきた若き日の祖母の一途(いちず)さに惹(ひ)かれるとともに、女優としての才能を見出(みいだ)し主役に抜擢(ばってき)しました。

 その後、別れ別れになった時期もありましたが二人は再会し、幸せな結婚生活を送った後、老境に入った奇生は行方不明になった美月を再び捜すことになりました。それは彼女の認知症のためだったのです。奇生は自分の顔も名前も忘れてしまった妻を思い出の場所で見つけました。美月が自分たち二人だけしか知らない会話を覚えていて、徐々に夫である奇生のことも思い出していきました。

 孫にとってはそれだけでも驚きでしたが、祖父が高齢になった今も、出会った頃の祖母への思いを持ち続けていることを知るにつけ、奇想天外で輝かしい日々を語る祖父の話にぐんぐん引き込まれていくのでした。

 一方、祖母の美月は夢と現実の区別がつかなくなるなど認知症の症状が進み、病状は重くなっていきました。そのため祖母の面倒も見るようになった孫は、祖母の記憶の中にもまた祖父への思いが残っていることに気づくのです。ところがある日、一人で出かけた祖母の行方がわからなくなるという「事件」が起こります。家族が途方に暮れるなか、祖母の居場所を言い当てたのは祖父。昔二人が再会した場所だったのです。

 すべての映画に必ずしもハッピーエンドを求めるわけではありませんが、認知症の人が登場する作品に時にはこんな素敵な終わり方があってもいいのではないでしょうか。病気が早く進行するように描かれている作品も少なくないことが「認知症になったら何もできなくなる」という誤解につながっているように思います。認知症についての正しい情報と周りの人の理解があれば、安心して幸せな暮らしができるということをこの映画で教えられたような気がします。

2024年8月