「わが母の記」(2012年・日本)

(C)2012「わが母の記製作委員会」

 周囲の心の余裕も大切

 作家、井上靖の自伝的小説「わが母の記」3部作を、原田眞人監督が映画化した作品です。配役は役所広司、樹木希林、宮崎あおいといったそうそうたるメンバー、主題として幼いころ母親に捨てられたという記憶を抱える中年男の葛藤を描き、公開当時(2012年)に話題となりました。

 昭和39(1964)年、作家の伊上洪作(役所)は、郷里の伊豆で暮らす父が亡くなったため独りとなった母・八重(樹木)の面倒を東京で見ることになります。しかし彼には幼いころ、母親に捨てられたという記憶があり、わだかまりが残っています。そんな中、カギを握る八重の認知症が進みます。

 八重は家族に同じ話を繰り返すかと思えば、我慢できずにそれを指摘する人には、「性格が悪い」と、逆にこてんぱんに悪口を浴びせます。それでも交代で世話を焼くやさしい娘たちに支えられ、洪作は母との幼いころの記憶を一つ一つ思い出し、そんな母を理解していきます。記憶の薄れつつある八重でしたが、自分に向き合おうとする洪作から愛されていることに気付いたのでしょうか。

 それにしても伊上家の介護の手厚さには驚かされます。洪作の娘の3姉妹(原作では4人きょうだい)らは、いつでも交代して介護することが可能で、諸事にたけていそうです。

 お金をかければ良い介護ができるとは必ずしも思いませんが、伊上家の心のこもった介護から法事に至るセレモニーの数々を見るとやはり関わる人たちのこころの余裕も大切だと改めて思います。

2024年10月