「うぉっしゅ」岡﨑育之介監督(2025年・日本公開)

この作品は認知症の祖母とその介護をすることになったソープ嬢の孫との交流と葛藤をコミカルに描いたドラマです。
そもそも認知症をテーマにした作品といえば、「病気の進行が早く最後は何も分からなくなる」といった誤解から暗いイメージを持たれがちです。その点、岡育之介監督は認知症を介して家族愛に気付いていく様子を祖母と孫のエピソードを通して語ります。
「一週間だけ、おばあちゃんの介護をしてくれない?」
母からの電話は突然でした。孫の加那は祖母の紀江に10年近く会っていない上、ソープ嬢の仕事を隠していたので気が進みません。それでも半ば押し切られる形で加那のあわただしい二重生活が始まります。
おばあちゃんに喜んでもらおうとたくさんのお土産を抱えて実家に帰った加那でしたが、迎えてくれたのは紀江の変わり果てた姿でした。加那の名前も顔も忘れてしまったらしく紀江は「初めまして、どちら様ですか」と繰り返すのです。
心身ともに疲れ果てていく加那でしたが、意外にも元気をくれたのは相談相手とは考えてもみなかった紀江でした。紀江は孫の仕事も事情も知らないはずなのに、「仕事を辞めたい」と言う加那に対して「職業に貴賎はない。生活の糧だから辞めてはだめ」と断言するのでした。
一方、加那が自宅で世話になっている家事援助サービスのスタッフに「祖母が私の名前を忘れてしまった」と話すと、元介護職だったという彼女から「おばあちゃんがあなたを忘れたんじゃない。あなたが先に忘れたんです」と告げられます。さらに「(いくら努力しても)家族には勝てないです」とも諭されます。
おばあちゃんに対するイメージが少しずつ変わってきていた加那がある日、祖母のアルバムの中からサックスを吹く紀江の若い頃の写真を見つけました。そのサックスを加那がそっと紀江に差し出すと、けげんな表情で受け取りながらも、紀江はやがておずおずと息を吹き込み、指を動かし始めるのでした。
そしてある日のこと、加那が実家に戻ると、祖母が笑みを浮かべながら「加那ちゃんお帰り」と迎え入れてくれたのです。紀江に対する加那の心の変化が伝わったかのようでした。
祖母紀江役の研ナオコがミュージシャンだった女性の凛とした姿を熱演しています。
本作は2025年5月2日より新宿ピカデリーなど全国で公開
2025年3月