父と僕の終わらない歌(2025年・日本公開)

音楽は元気の特効薬
本作はアルツハイマー型認知症となった父が若い頃一度は諦めたレコードデビューの夢を、息子や友人たちの応援を得て実現しようとする感動の物語です。
この作品は実話を参考にしています。2016年のイギリスで、YouTubeに投稿された1本の動画。そこには息子の運転するオープンカーの助手席に座り、思い出の曲を伸びやかに歌い上げる父テッド・マクダーモットの姿が映っていました。彼はアルツハイマー型認知症を患っていたので、そのはつらつとした動画は同じ境遇の家族に感動と希望を与え、再生回数は世界で6000万回以上を記録したといいます。
この動画にヒントを得た新たなストーリーはこのようになりました。神奈川県の横須賀で楽器店を営む間宮哲太(寺尾聰)は、時々地元のホールで仲間と魅力的な歌声を披露してきました。夢はレコードデビュー 。家族にもかなえさせてあげたい思いは十分ありましたが父親と息子の雄太(松坂桃李)の間にいさかいがあって中断し、立ち消えになっていました。
そんな折、哲太の物忘れが気になるという家族に付き添われクリニックを訪れた哲太はアルツハイマー認知症と診断されます。 病状が少しずつ進む中、息子の雄太や妻の律子(松坂慶子)、地元の人々、そして何より大好きな音楽が哲太自身のピンチを何度も救います。
認知症の人が出てくる作品には「見ていて暗くなる」という声が聞かれます。確かに認知症をテーマにした作品には必要な場面があるかもしれません。また、この社会には「認知症になったら何もできなくなる」という言説が根強く残っていることも見逃せません
ところがこの作品は見終わった後、元気になることができます。それはこの作品が主人公の認知症を事実として捉えながら「認知症になってもできることはある」という小泉徳宏監督の視点が貫かれているからだと思います。
元気を出して生きていくための特効薬の一つは音楽。それは認知症であろうとなかろうと同じです。哲太の歌が聴く人の心を揺さぶり、一緒にわくわくした時間を過ごせたことは確か。歌えて演技力もあり「カッコイイ」年配の俳優である寺尾聰が主役に選ばれたのも当然のことです。彼自身も「俳優と歌手人生が初めて交わる、自分にとってもメモリアルな作品です」と感想を寄せています。
一方息子役の松坂桃李も「自分の役を他の人がやっていたら、きっと悔しかったと思います。皆さん自身の家族の物語です。この映画によって希望を感じてもらえる瞬間がありますように」と振り返っています。
またディーン・フジオカが脇役ながら印象に残る名演技を披露しています。映画で流れる名曲の数々もご堪能ください。
5月23日全国公開
2025年6月