ケアニン~あなたでよかった~(2017年・日本)

(C)2017年 映画『ケアニン』製作委員会

人生終わりではない

 小規模多機能型居宅介護事業所を舞台に、新米介護職員の悲喜こもごもの奮闘ぶりを描いた物語です。

 主人公の大森圭(21)=戸塚純貴=はピッカピカの介護福祉士一年生。 高校卒業後は特に理由があるわけでもなく介護の専門学校へ入学。 卒業後は郊外にある小規模介護施設で働き始めます。就職の動機がはっきりしたものではなかったのですから、ご機嫌斜めの施設利用者が騒いだりすると、怖がって柱の陰からのぞく始末。

 そして圭が初めてメーンの担当を任されたのは認知症の星川敬子(79)=水野久美。 敬子との距離を縮めようと、圭の悪戦苦闘の日々が始まります。食事をしたことを忘れ大声を出す敬子に「今作っているところです」と機転をきかせて落ち着かせたり、ミカンには忘れられない大切な思い出があることを聞き出したりします。また、敬子が音楽の先生だったことを知ると、オルガンを弾いてもらい、坂本九の名曲「見上げてごらん夜の星を」を地域の子供たちと合唱したこともありました。

 そんな日々を重ねるうちに圭は「なんとなく」で始めた介護の仕事に、本気で向き合うようになっていくのでした。しかし……。

 敬子に新たな病が見つかり余命幾ばくも無いことが明らかになりました。圭は「認知症で人生終わりになんて僕がさせない」と宣言しましたが、圭の願いもむなしく敬子は亡くなってしまいました。

 チーフは元気のない圭に「まだ落ち込んでいるの?」と声を掛けます。圭は「チーフはむなしくなったりしませんか。どんなにがんばっても最後は死んじゃう。助けられない」。それに対してチーフは「助けるってどういうこと? 人はみんな死ぬでしょう。圭は敬子先生としっかり向き合ったじゃない。むなしくなんかない」と励まします。

 それでもなお「最後まで(僕のことを)覚えてもらえなかった。この仕事を続けていく自信がないかも」という圭でした。

 そんな時、敬子の家族が退所の手続きを済ませるため施設に立ち寄りました。思いがけず家族の言葉は圭に対する感謝にあふれていました。敬子の息子は「大森君は認知症になっても終わりじゃないと言ってくれたよね。母の人生を大森君が終わりにしないでくれた。君を必要とする人はまだまだいる。その人たちに寄り添ってあげてください」と。孫娘が「おばあちゃんから」と言って圭に渡したものは、敬子の字で「けーさん しんせつ」と書いたメモでした。敬子先生はちゃんと圭のことを覚えてくれていたのです。

 映画のラストで施設長が圭に語りかけます。「介護という言葉は俺は好きじゃないんだ。介護という言葉で縛りつけて特別なものにしちゃあいけないんだ。誰だって普通に年をとる。みんなが寄り添って助け合う。それが当たり前なんだ」と。

 実際に介護の現場で出会った言葉を紡いだこの映画は、認知症になっても人生終わりではないと前向きにさせてくれる作品です

 本作品は2017年6月に全国公開され、好評につき、同年10月から随時上映会を開催しています。

2025年6月