「こわれること いきること」(2023年・日本)
喪失 介護通じ再生
東日本大震災で家族を失った主人公の女性が、介護の仕事を通じて生きる目標を見つけていく喪失と再生の物語です。
高校時代には吹奏楽部でフルートを楽しんでいた遥(吉田伶香)ですが、東京の介護専門学校に通い出してから多忙で、フルートとはすっかり縁遠くなっていました。そこへ古里に住む従姉妹から結婚式の案内状が届きましたが、遥はなんとなく欠席してしまいます。
ところが式当日の2011年3月11日午後、東日本大震災が発生。車で式場に向かっていた遥の家族4人は被災し全員が死亡しました。家族で1人生き残った彼女は、罪の意識と喪失感にさいなまれるのです。
心配してくれた親戚にも連絡せず、友人との人間関係も遮断しながら専門学校を卒業した遥は地元の介護施設で働き始めます。身勝手な老人たちの世話をしつつ忙しく過ごしてはいるものの、心の中は相変わらず虚(むな)しさでいっぱいでした。
そんなある日、偶然高校の恩師で吹奏楽部顧問だった小田由美子(藤田朋子)が、夫に付き添われて遥の働く施設に入居してきました。由美子はレビー小体型の認知症が疑われていました。遥は恩師との再会を喜び、病状が安定していれば昔のようにフルートの指導をして欲しいとお願いします。
由美子先生のフルートへの思いと遥の熱意が実り、高校吹奏楽部の仲間たちによるミニコンサートが施設の食堂で開催されることになりました。遥たちの一生懸命な演奏に最初は戸惑った様子の由美子先生の表情も少しずつ和み、他の入居者、施設のスタッフたちにも笑顔が広がっていきました。音楽の力をまざまざと感じさせる場面です。その余韻を楽しむように遥たちが由美子先生の部屋へ向かおうとした時、先生はフルートを手に先に1人自室に戻りました。やがて心を洗われるような見事な調べが流れて来るのでした。
小春日和のある日、遥は車椅子の由美子先生と散歩をしていました。遥が「寒くないですか」と聞くと、先生から「少し歩いてみようかな」という思いがけない言葉が返ってきました。遥が支えると先生は車椅子から立ち上がり、二人はゆっくりと歩き出しました。「ここに来てよかった。あなたに会えて本当によかった」という先生。その言葉に「私しっかり面倒を見るからね。元気でいてね」と遥。ラストシーンでの二人の会話から、この映画のタイトルに込められたものが伝わってきました。
なおこの作品は貸し出し用DVDとして全国各自治体の図書館に贈られました。
2025年12月