「徘徊ママリン87歳の夏」(2015年・日本)
母娘の悲喜こもごも
認知症をテーマにした映画には必ずと言っていいほど認知症の人の徘徊する姿が描かれています。健康のために歩くのならいいのですが、家族が目を離したすきに一人で家を出ることは極めて危険です。本作は大阪の北浜というビル街のまっただ中で、87歳で認知症の母親(愛称ママリン)と、フリーランスで働く娘の章子さん(愛称アッコ)との悲喜こもごもの日常を追ったドキュメンタリー映画です。
この作品の魅力は間もなく90歳になろうかという母親と、その娘との間で交わされる漫才のようなやり取りです。例えばママリンがいつまでも姿を見せない夫のことを案じて「父さんはどこ?」と繰り返し娘に尋ねます。するとアッコは「父さんは亡くなったじゃないの、さっきも言ったでしょ」と言い返します。ママリンは「あ、そう」と言いつつも釈然としない様子です。
一方、「いつまでもここに居ていいとあんたに言われて本当に良かった」と涙ぐみます。かと思えば、突然アッコの事務所で「お世話になりました。これから家に帰ります」と支度を始めるママリン。ところがアッコから「家はもうない」と打ち明けられると怒りだし、「家がないなんて言わんでください」と感情を爆発させます。認知症の人にとって住み慣れた家の記憶がいかに大切なものかをうかがわせる場面です。
しかしアッコは一人で外出したママリンを強い言葉で否定するようなことはせず、偶然を装って声をかけるなど臨機応変で粘り強くママリンに寄り添い続けます。それでもある日、アッコがデイケアのバスに乗り込む母親を見送る際のことです。アッコがママリンの姿が見えなくなった瞬間、玄関前に立ち「やったあ、バンザーイ、(私は)自由!」と叫ぶのでした。介護の大変さから一時的に離れ、自由を得た解放感に浸るかのようにです。
いま、家族の介護を一人で抱え込んで疲弊している人たちが残念ながら少なくありません。それでも外で万歳を叫べなくとも、介護の経験者やプロの方々に助けを求めたり、相談に乗ってもらったりする道は開かれています。例えばこの「新時代」を発行している「公益財団法人 認知症予防財団」は、1992年に無料の電話相談「認知症110番」を開設してから3万件を超える相談に応じてきました。匿名での相談も可能です。一人で抱え込まず、先ずはお気軽にご相談ください。
長い間、このコーナーをお読みいただきありがとうございました。(終わり)
「映画の中の認知症」は今回が最終回です