コラム「母を撮る」

母とそれぞれの孫たち

関口祐加 映画監督

 母には、4人の孫たちがいます。私の妹のところに3人と私の息子の計4人です。母は、私に面と向かって「子より孫の方が、ずうっと可愛い」と言います(笑)。孫たちもおばあちゃんのことが大好きですが、それぞれ付き合い方が違うので、とても興味深いですね。

 妹の長女楓子(ふうこ)は、今年21歳になりました。母にとっては、初めての孫で、夜泣きがひどかった赤ん坊の楓子を抱っこして夜道を行ったり来たりしたことがあるので、格別な思入れがあるようです。楓子は、楓子で、母親である妹の愚痴をこぼす相手が母。母は、楓子の仕事の相談やら、一生懸命耳を傾けています。母の答えがややズレていても楓子は、上手にスルーしたり、話の話題を上手く変えて対応していることに感心させられます。

 妹の長男海周(かいしゅう)は、19歳。浪人生です。海周が一番母との接触が少ない孫ですが、だからと言って母のことを気にしていないかというと、そういう訳ではありません。楓子や、妹の樹子(ことこ)から母の話をしっかりと聞き、母の現状を把握しています。そして、たまに会うと母から「どなたさん?えっ、海周?もうおっさんだぁ!」と言われても動ぜず「おっ、キタ〜!!」と笑って返しています。この2人の会話は、毎回同じですが、海周は、毎回初めてのように対応し、毎回笑い合っています。

 妹の末娘の樹子は、中学2年生で13歳です。「毎日がアルツハイマー」の撮影の頃(2009〜10年)のように毎晩母屋に来る機会は少なくなりました。部活があり、忙しくなったためです。また、一時期母が、妹夫婦、つまり樹子の両親の悪口を本人の目の前で言うので、疲れていた時期もありました。しかし、そんな母をそのまま受け入れることを学んだのも樹子です。アルツハイマーのおばあちゃんを変えることが無理なら、自分が違った対応をする。それは、おばあちゃんのことは、大好きでもおもねることはしない、そんな風にも見てとれました。そして、母の一番素晴らしい「空想の感性」を引き出し、共有し、楽しむ事をしているのが樹子です。

 最後に私の一人息子の先人(さきと)です。樹子と同じ中学2年生。8月で14歳になります。亡くなった私の父に一番ソックリだというのが、母を含めた家族の見解です。父にソックリということは、悪ふざけやジョークが大好きということで、先人が母のアルツハイマーを一番楽しんでいると思います。母を一番笑かす(笑わせる)のも先人です。一年のうち夏と冬の2回しか母には、会えませんが、母も先人もお互いの存在を十分に堪能(?)していると思います。母の下ネタ好きを引き出したのは、先人かな。以下、お風呂から出て来た時の先人と母の会話です。

 先人「きゃああ!どうしよう、お尻にケガをして二つに割れちゃった!」(お尻を出す)。母「どれどれ?ありゃ、ホントだ。割れちゃっているよ〜可哀想に。でもおばあちゃんなんて前も割れちゃってんだよ!」

 ここで2人は、涙を流しながら大笑い。これを毎晩やるので、おかしいやら、あきれるやら。しかし、母曰く、下ネタは、誰も傷つけないからいい、と毅然としています。かつて父の下ネタを烈火のごとく怒っていたのに、と違った意味で感慨深いですねえ。

 アルツハイマーになった母は、身をもって堂々と老いること、ぼけるということを孫たちに見せ、また、孫たちにとっても母は、人が人生の最後に行き着く姿を包み隠さず見せてくれている存在だと思います。そんな母と孫たちの関係の推移を楽しみにしたいと思っています。

2013年8月