コラム「母を撮る」

イギリスロケ敢行!

関口祐加 映画監督

 9月2日の午後、イギリスのヒースロー国際空港に到着しました。9泊10日のイギリスでの撮影ロケの開始です。これは、もちろん「毎日がアルツハイマー Stage 2(仮)」のためです。実は、この原稿もロンドンのホテルで書いています。

 そもそもなぜイギリスに行こうと思い立ったのでしょうか。母のアルツハイマー病と付き合って3年半、私の中でもっともっと認知症ケアの事を知りたいと思うようになったこと、特に「毎アル」完成後、映画と共に、色々な場所で色々な人たちと出会い、色々な介護の悩みを聞くうちに、自分の中でますます「パーソン・センタード・ケア」の重要さを感じるようになったことの2点が、大きいと思います。

 そして、「パーソン・センタード・ケア」の事を詳しく知るには、「パーソン・センタード・ケア」を提唱された故トム・キットウッド教授のイギリスに行き、直接イギリスの先生達とどのように「パーソン・センタード・ケア」が実施されているのかを話し合い、この目で見たい、と強く思うようになったのです。

 私は、知りたいとなると、もういても立ってもいられなくなる質です。そして、偶然に6月にネット上でロンドンから3時間ほど北のノーリッジにある東アングリア大学(UEA)臨床心理学部の認知症研究の先生たちと知り合ったことも関係していると思います。

 えっ、認知症に臨床心理学? 俄然(がぜん)、興味津々!

イギリスのノーリッジにある認知症ケア・アカデミーの看板

 それからは、母のその後の撮影を続行しながら3カ月近くイギリス行きを準備してきました。そして、遂にUEAと密接な関係のあるジュリアン・ホスピタル内にあるハマートン・コートという「認知症ケア・アカデミー」内の撮影が許可されたのです! 50億円近くもかけられたこの素晴らしい建物は、昨年完成。地域の認知症ケアの中心になっています。

 さらには、監督として、自分の要求が高いことは、知りつつ、そのアカデミーの認知症コースにも参加させて欲しい、そして、参加者全員を撮影させて欲しい、という図々しいお願いもしました。初級の「認知症とは?」というコースの撮影は、許可が下りましたが、中級の「認知症初期の苦しんでいる人をどのようにサポートするのか」というコースは、撮影が難しく、こちらは参加だけのみになりました。

 しかし、両コースとも私が横浜で参加したような認知症講座とは、全く違いビックリ! 徹底的に認知症の人から見た「パーソン・センタード・ケア」を追求するエクササイズを多くするコースでした。参加者は、全員が認知症介護のプロでしたが、グループを一緒に組んで、考えさせられ、発表させられ、最後は認知症ケア・マップを計画するというかなり実践的な内容。大きな刺激を受けると同時に、講師をはじめ参加者全員の情熱に深く感銘も受けました。これは、「毎アル Stage 2(仮)」でお見せできると思うので、どうぞお楽しみに!

 肝心な母ですが、こちらもビックリ。イギリス行きを目前に、8月からお泊まりデイ・サービスを利用するようになりました。週に1回、宿泊設備のあるデイ・サービスに行く練習を始めたのです。大好きな花札を持って「この男(マネージャー)のマンションに泊まっていいのかい?」と言いながら。最初は私の方がドキドキしたのですが、母はニコニコ顔でご帰還。この宿泊デイ・サービスと一番年上の姪(めい)に母屋に泊まってもらうという連携プレーで、私のイギリスロケが、可能になりました。それにしても、母の進化はスゴイ!

 さて、最後にイギリスの先生達からの質問です。「アメリカと同じで日本には、認知症の脳神経関係の先生は多いけれど、どうして心理学者や社会学者が、あまり認知症ケアに関わっていないの?」

 次号で、もう少し詳しくこの認知症ケアと臨床心理学の関係、イギリスの現状をご報告しますね。イギリスでのロケを全て無事に終わり、本日10日(9月)、帰国の途につきます。

2013年10月