コラム「母を撮る」

認知症ケア・アカデミーを熱望!

関口祐加 映画監督

 このコラムでも何回かイギリスの事を書いてきました。私が母の介護を考える中で出合い、認知症の介護において唯一無二であると考えるようになった「パーソン・センタード・ケア」は、イギリス生まれです。正確には、心理学の教授だった故トム・キッドウッド氏が、考えた介護のコンセプトです。一体「パーソン・センタード・ケア」とは、どのような介護のことなのでしょうか? 簡単に言えば、認知症の人を一人の“人”として尊重し、その人の視点や立場、性格、生きて来た歴史を理解し、その上でケアを考え行うことだと思います。そして、そうするには、人の心を理解する心理学的アプローチが鍵だという事だと私は理解しています。

 イギリスは、2001年に「パーソン・センタード・ケア」をNSF(National Service Framework for elder people 2001:高齢者サービスを行う際の国家基準2001年版)として認定しています。つまり、国家戦略として取り入れられているということ。認知症になっても最後まで人としての尊厳を守る介護を目指すというイギリスの国としての姿勢が見えてくると思いませんか!

ハマートンコートに向かう関口祐加監督
© NY GALS FILMS

 今回「毎アル2」で撮影をしたのは、ノーリッチにある「ハマートンコート認知症ケア・アカデミー」という場所であることは、以前にも書きました。ハマートンコートについては、認知症ER(緊急救命室)としての機能が、大変興味深かったです。ここに入所している人たちは、認知症の最終ステージにいる人たちだと教えられました。しかし、ハマートンコートは、彼らにとっては終(つい)の住み家ではありません。いわゆる仮住まいです。なぜ? それは、一人一人の「パーソン・センタード・ケア」によるケア・マッピングを作成するために仮入所しているからです。

 「毎アル2」に出てくるのですが、ケア・ホームにいたあるご婦人の話です。日中は落ち着いているのに、夕食後自分の部屋に戻るエレベーターの中で毎回動揺し、騒ぎ出します。さて、ハマートンコートのスタッフは、どのようにこのご婦人に「パーソン・センタード・ケア」を適用したのでしょうか! ここは、是非「毎アル2」を見てくださいね。この具体例を知れば「パーソン・センタード・ケア」とは、どのような事をするのか、きっと理解できると思います。

 イギリスに行って体験し、考えたこと。認知症には、国境はないということや、また、介護家族の苦しみや大変さも変わらないということでした。では、何が違うのでしょうか? ズバリ、認知症介護に携わるプロの看護師さんや介護士さん達が、常に自分たちのスキルを確認し、ブラッシュアップ出来るハマートンコート認知症ケア・アカデミーのような場所があるという点です。

 資格を取っただけではダメなんですね。現場の叩(たた)き上げの経験だけでもダメ。現在進行形で変わっていく認知症の症状に対して、常に自分の認知症に対する知識やスキルを相対化する作業が重要だと思いました。

 ハマートンコート認知症ケア・アカデミーは、イギリス政府とトラスト(信託)の共同経営です。「パーソン・センタード・ケア」という認知症介護の専門家を育てるのが大きな目的です。国が関わる認知症介護専門のアカデミーが、日本にも欲しい! 認知症800万人という時代であるなら尚更(なおさら)です。

 何はともあれ、「毎日がアルツハイマー2〜関口監督、イギリスへ行く編」は、いよいよ7月19日(12日から変更!)に公開です!

2014年6月