コラム「母を撮る」

すでに「毎アル3」の撮影開始!

関口祐加 映画監督

 突然ですが、6月10日から入院し、6月16日に右股関節全置換の手術を受けました。早速「毎アル3」として、手術室にカメラを入れ撮影を敢行! 実は、私のこの股関節問題は、「毎アル3」としては、とっても美味(おい)しい(?)ストーリーなのです。今回は、右股関節の方の手術でしたが、骨のMRI(磁気共鳴画像化装置)を撮ったところ、何と!先天性両股関節変形症と診断されたのです。しかも股関節脱臼の治療痕あり。えっ、先天性で、股関節脱臼だったとは、どういうこと?

お見舞いに来た母(左)と姪(右)に囲まれて笑みがこぼれる (c)森谷博

 早速、母に聞いてみると「は? 肩の脱臼だろ?」という返事。「いや、肩じゃなくて、股関節だって」と言っても全く腑(ふ)に落ちない様子です。しかし、母に聞かずとも、確かに関口家は、股関節の問題を抱えています。父の姉、つまり、私の伯母も老年期に股関節変形症を発症し、今は車椅子の生活になってしまいました。また、伯母の長男は、生まれつき股関節変形が激しく、矯正靴を履いていたぐらいですから。それでも、私が、股関節脱臼だったとは、今の今まで知らなかった衝撃的な事実です。

 しかし、思い返してみれば、子供の頃に色々と不思議な事がありましたね。私が高校生の時に亡くなるまで一緒に同居していた明治生まれの父方の祖母は、私が小学校の頃から念仏のように「お前は、結婚には向かない。好きなことをして羽ばたけ!」と激励してくれたのです。父も父の弟も同じでした。ところが、4歳年下の妹は、そんな風に言われた事がない、不公平だ、といつも文句を言っていました。ただ、母だけは、ひと言も羽ばたけとは、言ってくれませんでした。家族の思いが一致していないのを不思議だなあ、とは思いましたが、私は、すでに羽ばたく道を選んでいたので、気にも留めなかったというのが、正直なところです。現に私が大学卒業後に、オーストラリアに羽ばたいて留学をした時には、母は、一人早朝の犬の散歩で公園に行き号泣した、という事を母の姉に聞かされても自分の人生の冒険に夢中で、あまり母の哀しみに寄り添う事はなかったのです。本当に親不孝な娘ですね!

 ただ、これが、全て私が両股関節脱臼で生まれたことと関連して考えると納得です。先天的に両股関節が弱いということは、骨盤との関係で、確かに出産は厳しいでしょう。羽ばたけという激励の裏には、もしかしたらこの子には、結婚をして子供を産むということが難しいかも知れないという関口家の大人の切ない思いを感じ取ることができます。
 しかし、私は、自分の両股関節脱臼も変形症も知らなかったので、42歳で息子を出産し、晴れて母親になりました。何よりも文字通り羽ばたいて、オーストラリアで天職である映画監督にもなりました。そう考えると、私の出生の秘密である股関節問題は、私の人生において、プラスに作用したとしか思えません。

 そんな家族の背景を「毎アル3」として考え、だから手術室にカメラを入れて、撮影してもらったという訳なのです。今回、初めて一緒に組んだ森谷博カメラマンは、かつてテレビの動物番組のディレクター兼カメラを担当していた人で、実は1年ほど前に「ドキュメンタリストの穴」という私のニコニコ動画での番組で出会いました。何たって、アフリカで象の解体を撮影したカメラマンですから、私の股関節からの血しぶきぐらいでは、動揺しませんよね!

 そうそう、手術前に姪(めい)と一緒に入院先の東京の病院にお見舞いに来てくれた母は「なぜ、地元の横浜の病院じゃないのか」と不満タラタラでした。ちょうどその時に私の執刀医が、病室に入って来たのです。すると母は「理由は、これか!」と叫び、にんまり。そう、私の執刀医は、超イケメンなのです。でも母は、「私の浜チャン(介護士)の方が、いい男だよ」だって。いやいや、私の執刀医の方が……母と娘のイケメン好きは、ついにお互いに競い合うまでになってきました! 「毎アル3」の撮影は、始まったばかりですが、ワクワクしています。

2014年8月