コラム「母を撮る」

ターニングポイント

関口祐加 映画監督

長岡市での講演(C)長岡三古老人福祉会

 2012年に「毎日がアルツハイマー」、14年に「毎日がアルツハイマー2」が公開され、映画館での興行後は、お陰さまで全国津々浦々、映画と共に講演をさせて頂いています。映画なしで講演だけの時もあります。その数は、何と300回に迫る数の多さ。心から感謝の気持ちでいっぱいです。

 「毎アル」公開以来、この3年間で何が変わったかというと、やはり私自身の認知症に対する認識の大きな変化だと思います。「毎アル」公開時は、母の認知症の経緯と、自宅での介護生活のエピソードを話すことで精一杯でした。ただ、当時は、認知症の介護生活をオープンにすることはまれでしたので、注目して頂けたのかなとは思います。

 今や介護している人間だけではなく、認知症であるご本人が本を出版されたりして、認知症という病気に対してタブーの垣根が低くなってきていると感じています。私が「毎アル」公開時に「年老いて、しかも認知症のお母さんのことをさらけ出して」と批判されたことを考えると隔世の感がありますよね! つくづく、オープンにすることの大切さを思います。

 そんな最中、8月19日に「毎アル」シリーズの上映と講演で新潟県に伺いました。実は、新潟県に伺うのは、これで3度目です。今回は長岡市で行われた新潟県認知症介護実践者研修総括講座の講師として(!)、初めて招待されました。300名の介護の専門職の人達を目の前に話をするのは初めてでしたので、講演内容を一新させ、Macユーザーの私には、慣れないパワーポイントも作成したりして、かなり準備に時間をかけました。

監督にとってターニングポイントになった講演のタイトルは「認知症ケアの神髄」(C)2015 NY GALS FILMS

 結論から言えば、私にとって大きなターニングポイントになる講演になりました。母の自宅介護は、6年目に突入しましたが、その間に疑問に思ったこと、実践していること、学んだことなど全てを総括して「認知症ケアの真髄」というタイトルで話をさせて頂きました。映画監督である私が、認知症ケアの真髄を話すなんて何とおこがましいと知りつつ、私の中では、単に母との日常の介護生活のエピソードの話だけではなく、Big Picture、つまり、認知症介護の本質について考え始めていたことをまとめて発表するいい機会となりました。これは、やはり「毎アル2」でイギリスに撮影に行き、認知症ケアの専門家たちと話せたこと、また、認知症ケアを理論として考える機会を得たからだと思います。このことは、自分の中の介護の問題意識を広くし、同時に、深く掘り下げることにもなりました。そして、何よりも今回の長岡市での講演のおかげで、介護の専門職の皆さんと認知症ケアの真髄を共有することが出来たことは、大きな喜びでした。

 講演の内容ですが、なぜ、介護を辛いと思うのか。日本的なお世話型介護とケアの本質的な違いは何か。偶然ではなく必然的に起こる虐待の背景とは何か。なぜ、住み慣れた自宅や地域という「箱ものキャンペーン」が真に認知症のことを理解しているとは言えないのか、などなどです。しかし、これも我が母、関口宏子さんを通して、彼女の認知症と日々向き合い、鍛えられているからこそ! そういう意味では、改めて母は認知症になってから私を大いにインスパイアする存在になってくれているといの一番に感謝しなければいけないですよね。

 そういう意味では、改めて母は認知症になってから私を大いにインスパイアする存在になってくれているといの一番に感謝しなければいけないですよね。

2015年10月