コラム「母を撮る」

活動再開!

関口祐加 映画監督

初のデイサービス5連泊の直後に待ち合わせた喫茶店でこの笑顔! (C)2015 NY GALS FILMS

 先々月の11月は、私にとって金字塔を打ち立てた気分です。一昨年の両股関節全置換の手術から、無事に両脚とも1年が経過しました。まだ、軽く杖をついていますが、これは、私のため、というよりどちらかと言うと、周囲の人達に自分の状況を知らせるのが目的です。それにしても、我が人生で初めて、コツコツと地道にリハビリをし、ここまで復調したかと思うと本当に感慨深いですね。

 両股関節の痛みが全くなくなり、サクサク歩けるようになれば、じっとはしていられません。まず、11月2日か6日まで、国立映画学校の招聘(しょうへい)で、シドニーに行ってきました。「毎アル2」の英語版を見せて監督科と撮影科でそれぞれ授業をするためです。初めて介護からは少し離れて、学生達と一緒に自分の作品の分析をするという授業になりました。心配したのは、私の英語力。しかし、案ずるより産むがやすし、でした。何回か単語には詰まりましたが、思った以上に喋れたのでよかった! また、3年ぶりに映画の仲間達に会えて「毎アルFINAL」の話が出来たのは、本当に刺激的で、ありがたかったです。

 帰国してすぐに、山形の認知症の人と家族の会で講演をさせて頂き、その後、厚木では「毎アル」の上映と講演に伺い、また、姫路では「毎アル2」と講演と続きました。「毎アル」は、公開されてから3年以上経ちますが、まだまだ上映が続いています。最近は、自分に課していることがあります。枕詞(まくらことば)を話しながら、当日のお客さんの反応を観て落語の題を決めた故立川談志のように、講演の内容を話しながら変えるというチャレンジ! 考えてみれば、講演だってパーソン・センタード・ケアにすべきですよね。来てくださったお客さんのニーズを即座に理解して、そこに沿った講演内容にするということです。

 合間には、両股関節の検診に主治医に会いに行きました。実は、主治医は、同系列の浦安にある大学病院に異動になったので、東京ディズニーランド経由で行ってみたかったのです! 横浜から同じバスに乗った人達がディズニーランドに行くのに、私だけ反対方向に歩いていくのは、愉快、愉快。でも、ちょっと調子に乗っていますよね。

 こんなふうにあちこちと動けるようになったのは、新しい両股関節のお陰だけではありません。母のお陰でもあります。母は、益々こだわりがなくなり、私がシドニーに行く際の不安を正直に言ってくれました。その結果、昨年私が入院中に利用して慣れたお泊まりデイサービスを再度、利用。一軒家のこぢんまりした介護施設であり、気心が知れたスタッフの人達がいることもあって、母は安心して初めて5連泊できたのです。母との再会は、自宅ではなくて、母が大好きな喫茶店にしたせいか(演出!)、母はにこにこしながら、ご帰還してくれたのです。

 母と娘は、認知症という病気に関わることで、一緒にチャレンジを続け、進化中ですよね。

2016年1月