コラム「母を撮る」

息子参上

関口祐加 映画監督

孫の先人を見て母はうれし泣き

 以前にも書いたことがありますが、私と息子は、息子が10歳の時から離れ離れに暮らしています。息子は、シドニーで父親と暮らしていますが、年に2回私と母が暮らしている横浜に帰ってきます。今年も彼の冬休みが始まった7月1日の晩に飛行機に乗り、7月2日の早朝、羽田空港に到着しました。5カ月ぶりの再会です。

 「わっ!また、大きくなっている!」。正直、成長ばかり目についてしまいました。8月には、17歳になり、もう子供というより男という感じになってきましたね。午前中に帰宅しましたが、母には午前中がないことが多く、そんなこともよく知っている息子は、シャワーを浴びてからさっさと休んでしまいました。

 母が、息子と感動的な再会を果たしたのは、夕食時です。大きくなった息子を見て大喜びし、その後、うれし泣きし、また大笑いするという忙しさ。母は、認知症になってから感情が顕著になりましたが、実は、認知症前も感情的な人だったのだと思っています。ただ、本人が必死に隠していた。私は、そう理解しています。特に母の憤怒は、小学校の頃からよく覚えていますし、ところどころで垣間見える感情の起伏には気づいていました。今のようにむき出しではなかっただけなんですね。

 順天堂大学大学院教授で「毎アル」シリーズの医学監修をしてくださっている精神科医の新井平伊先生も「認知症になっても人は、そんなに変わるわけではない」とおっしゃっています。問題は、私たちが「認知症になって変わってしまった」と解釈することにあるように思います。一番肝心なのは、認知症になる前の本人をどれだけ理解していたのか、ということではないでしょうか。

先人のおちゃらけに今泣いたカラスがもう笑った!=(C)NY GALS FILMS 2016

 我が家の息子と姪(めい)の高校2年生組のおばあちゃんとの付き合いは、丸16年。そのうち、おばあちゃんが認知症と判断されてからは7年目です。認知症になる前は、9年間ですが、それでもしっかりとおばあちゃんの人となりを理解しているなあと感心させられます。こう書くと驚かれるかも知れませんが、母は、実は、気難しい人です。表と裏の顔が違う典型的な日本人と言ったらいいでしょうか。^^;  そんなおばあちゃんのことを観察し熟知している2人は、いつもおばあちゃんの気分を盛り上げようとしてくれます。母の笑顔の裏には、演出あり、なんですね。

 早速息子は、料理をしてくれました。息子の料理に集う家族で、料理を通して共通の幸福感を共有する家族でもあります。今回は、息子は冬休みで帰国なので2週間しかいられません。ああ、今から息子が帰った後の母のことが心配です……

2016年8月