コラム「母を撮る」

真夏の異変・続編

関口祐加 映画監督

ポロシャツの上にパジャマを着てニッコリ= (C)NY GALS FILMS 2016

 新年あけましておめでとうございます。激動の2016年が終わり、2017年を迎えました。まだまだ世界各地で激変が続きそうだと案じています。地球上すべての国々と人々の平和を心より祈念したいと思います。本年もご愛読のほど、どうぞよろしくお願い致します。

 さて、前号は、真夏の異変とあるように母の夏のエピソードでした。まさか新年号に母の真夏のエピソードの続きを書くようになるとは思いませんでしたが……。新年を迎え母の在宅介護も8年目に突入です。改めて振り返ると2016年は、なかなか大変な年だったと思います。母の認知症は、穏やかではありますが、確実に進行していることを感じさせられることが多くなりました。まず、母はますます感情の起伏が、激しくなってきました。正確には、感情の激しさを隠せず、見えやすくなったと言うべきでしょうか。実は、認知症以前からかなりアップダウンのある人でしたからね。

 昨年の真夏のある朝、母は私に向かって「あんた、誰なの?」と初めて聞いたので「隣の家のおばさんよ〜」と答えてみたことを前号に書きました。母の反応はいかに? 「隣の家のおばさんが、なんで私の家にパジャマを着ているのよ!」。母は、瞬間湯沸かし器のごとく激怒しました。そんな時の私は、意外と冷静です。「はは〜ん、自分の家だと認識はしていても私の顔は、分からなくなっているんだ」。商売柄、私の口からはスラスラとストーリーが出てきます。「いやあ、娘さんが仕事だから昨晩から泊まってと言われたのよ」。母はどこか飛んでいるような眼(め)つきで「クソババアと言いやがって!」とブツブツ言っています。ここで「あっ!」と思い当たったのです。

 かつて妹が高校生のころに母と大げんかをして「クソババア!」と言ったら1カ月も口をきいてくれなくて困ったというエピソードを思い出したのです。どんな経緯でけんかになったかを忘れていても「クソババア」と言われたことをまだ根に持っている! びっくりしましたが、同時に妹が高校生だとしたら私は大学生。ところが、母の目の前にいる私はオバさんです。「あんた誰?」と言う訳だと合点がいきました。

 このようにいつも理解できる訳ではありませんが、母の行動や言動の理由を探るのは、とても楽しい作業です。

 今年はいよいよ「毎アル ザ・ファイナル」完成の年です。現在10分程度の予告編映像を製作中ですので、お楽しみに。母には、感情のアップダウンの中でも1日に1回は笑わせよう、そんなずっと変わらない2017年の抱負です。

2017年1月