コラム「母を撮る」

ヒューゴ博士の来日(前編)

「あんき施設長、ヒューゴ先生と一緒に」(C)NY GALS FILMS 2018

 2018年7月19日、待ちに待ったヒューゴ先生が、来日されました。7月31日までの12日間、先生とお付き合いするために、母はお泊りデイ・サービスを利用することになりました。母にとっては、初めての13連泊!母の話は、後編でしたいと思います。

 さて、ヒューゴ先生ご自身、今回の日本滞在のハイライトとおっしゃっていますが、一緒に松山市の施設「あんき」を訪問したことは、生涯忘れることがないでしょう。この「あんき」は、新作「毎アル・ファイナル」の映画に登場しますが、ごくごく自然にパーソン・センタード・ケアができている素晴らしい小規模多機能の施設です。古民家を改良し、一切鍵をかけずに開けっ放しの素敵な木造の平屋です。この「あんき」にヒューゴ先生をお連れすることは、私の願いでした。

 7月23日の朝9:30発の飛行機で一路松山へ。11:30には、空港近くの「あんき」に到着していました。この時間帯を選んだのは、お昼だから、という極めて図々しい理由です。ヒューゴ先生が「あんき」に来ている人たちと一緒にお昼を食べたら、言葉は通じなくても、心は通じ合えるかも、と考え、施設長の中矢暁美さんにも了承して頂いていました。

 結論から言えば、心配していたことのすべては、杞憂に終わりました。とても暑い日でしたが、開けっ放しの窓からは、気持ちのいい風が吹き抜けていきます。それでも汗ばみます。中矢さんがヒューゴ先生の首の周りに手ぬぐいを掛けた時、一人のおばあさんが、私に質問してきました。「外人さんの旦那さんなの?」。思ってもいなかった質問だったので「いえいえ、仲間・・・です」としどろもどろに答えて、ヒューゴ先生に通訳すると先生は、嬉しそうに大笑い。すると、質問をしてきたおばあさんも笑いながら「本当の夫婦かどうか、どうでもいいの。1日だけでもフリをして楽しみなさい」とアドバイスしてくれました。

 ヒューゴ先生もカタコトの日本語で「おいしいです」「なまえはヒューゴです」などなどコミュニケーションを取り始めると、あっという間に全員と打ち解けてしまいました。私の目には、ヒューゴ先生が、何の疑問も持たずに首の手ぬぐいをスッと受け入れたことをお年寄りたちは、見逃さなかったんだと思いました。「この人は信用できる」そんな空気が流れたのを肌で感じました。

 その後、ヒューゴ先生は、歌のアクティビティにも参加して、何と!英語ではなくて先生の母国語であるオランダ語で「頭、肩、膝ポン!」を歌って、その場のお年寄りたちから、大拍手をもらいました。もはや、言語の違いなど、どうでもよくヒューゴ先生が自然に仲間の1人になった瞬間でした。

 「あんき」には、そのまま泊まる人もいますが、昼間のデイ・サービス利用のお年寄りたちは、帰宅します。ヒューゴ先生と私が、玄関先で見送っていると、最初に「夫婦なの?」と聞いて来たおばあさんが、ヒューゴ先生に投げキッス!ヒューゴ先生も投げキッスをしっかりと受け取って、そのまま投げキッスを返します。その場にいた全員が、大笑いです。とにかく笑いっぱなしの素敵な1日になりました。

 私のヒューゴ先生への質問は一つ。「どうやってこんなに早く打ち解けられるんですか?」「簡単だよ。医師として接触せず、人として自然に関わるんだよ。それも意識せずにね」ブラボー!ですよね。

 後編では、ヒューゴ先生と一緒に登壇して何を語り合ったのか。またイギリスへ帰国される前に2泊3日でしたが、京都と奈良に行ったことも書きたいと思います。あ、もちろん母の話も!

2018年9月