コラム「母を撮る」

ヒューゴ・デ・ウァール博士の来日<後編>

 明けましておめでとうございます。本年も変わらぬご愛読のほどをどうぞよろしくお願い致します。

 年を越してしまいましたが、昨年7月のヒューゴ博士の来日のお話をしたいと思います。

 7月24日、東京・日比谷のホールでヒューゴ先生と一緒に登壇し、認知症ケアについて語り合いました。以前にも書きましたが、ここで初めて2013年にイギリスでお会いした時のお互いの印象を紹介し合いました。ヒューゴ先生は、秘書の人から「押しの強い日本人の女性監督が来て会いたいって言っているけれど、どうしますか?」と言われたとユーモアを交えて話しました。私はどうやら一般の日本人のイメージと違ったらしく、すぐに会いたいと思ったそうです。こういったところも気が合いますね!

 私は私で何とか撮影につなげるべく必死だったと記憶していますが、ヒューゴ先生に言わせると、会って5分で何か下らないジョークを言ったとか……全く記憶にはありませんが、そのお陰でヒューゴ先生は、私に心を開けると思い(!)「毎アル2」「毎アル・ファイナル」の映画出演に快諾してくださったようです。

 さて、日比谷での一夜は、ヒューゴ先生の認知症ケアにおける徹底的なパーソン・センタード・ケアの考え方とアプローチをご来場の皆さんに知って頂けたと思っています。ヒューゴ先生は、具体例として先生の施設に入所してきた認知症がかなり進行している男性が、毎晩丑三つ刻の3時に起床してしまい、看護師さんが途方に暮れたというエピソードを話してくださいました。ここで看護師さんが、まず、すべきことは、この男性を眠らせることでも、薬を投与することでもなく、なぜこの時間になると起き出してくるのか、という理由を探ることなのだ、と。ヒューゴ先生がいつも提唱している<理由を探る><探偵になる>ということですね。この男性の理由は、職業と関係していました。生涯を通じて郵便局の配達員をしていたそうで、毎朝3時に起床するのが慣習になっていたのです。

 ヒューゴ先生は、生活習慣からくるものは、認知症になったからといって変えることは出来ないと断言しました。変えなければいけないのは、ケアをしている側なのです。看護師さんは、24時間のシフト制なので、配達員になった男性を見守り、朝食に起きられなかったら起こさず、昼食を少し多めにすることを次のシフトの看護師さんに申し送りします。これが、パーソン・センタード・ケアなんですね!ただ、同時にこういうケアは、家族には難しいということも分かると思います。それでもパーソン・センタード・ケアが素晴らしいのは、ケアを受ける本人が落ち着くので、ケア側に時間の余裕が出来るという点です。私も母のケアでいつも感じていることです。

 ヒューゴ先生の日本滞在の最後は、ご本人の希望もあり、京都・奈良への小旅行で締めくくりました。京都は観光客だらけでびっくりされたようでしたが、奈良は、鹿や法隆寺、東大寺の大仏を堪能され、2週間近いスケジュールを無事に終え、イギリスへ帰国されました。私達2人も以前に増して親しくなり、2人で一緒に日本で認知症ケア・アカデミーJAPANを設立しようと計画をしています。

 肝心の母は、13泊14日のお泊まりを2泊3日だと感じて、元気よく帰宅してくれました。改めてこういう時間の錯覚は、素晴らしいと思った次第です。

2019年1月