コラム「母を撮る」

毎日がアルツハイマー・スピンオフ始動!

息子と母

 えっ?「毎アル・スピンオフ」が始動?そうなんです。一番驚いているのは、スピンオフをやろうと思った私自身です。

 きっかけは、昨年NHKの「クローズアップ現代」(2018年11月14日放映)に取材され、息子共々親子で初めてインタビューをされたことでした。番組では、孤独死が取り上げられましたが、我ら親子は、後半で私の死に方について語ったのです。初めて息子が、カメラの前で何を言うのか。母親としても、監督としても興味津々でした。

 私たち親子が、「死ぬこと」を自然に語り合えるようになったのは、やはり母が何回も意識不明で倒れていることと関係あると思います。ある意味で母自身が、いずれ死ぬということをリアルに示してくれているんですね。母は、直近では、昨年の暮れに入浴後、意識不明で倒れました。もう6回目です。

 2010年1月末に私がオーストラリアから帰国して丸9年。母の在宅介護は、10年目に突入です。息子はこの間、認知症の母の介護で一番大変なのは、私が母の命の責任を最期まで負わなければならないことだと身近で感じてきたと思います。

 私自身は、最新作「毎アル・ファイナル」の撮影でスイスの在宅医であるエリカ・プライチェック博士と出会い、生まれて初めて自分で「死ぬ」という自死幇(ほう)助のオプションを考えることになりました。その背景には、母のように息子に私の命の全責任を預けたくないと思ったからでしょうか。そして、エリカ先生なら、イギリスのヒューゴ先生と同じように信頼関係を築けると思い、先生の自死幇助クリニック「ライフサークル」の会員になりました。今年でもう4年目になります。

 さて、冒頭のNHKの取材は、自死幇助クリニックの会員になっている母親を息子としてどう思うのかというものした。息子は、シドニーの高校を卒業し、昨年4月から東京で一人暮らしを始めて調理学校に通っています。月に1回は、横浜に帰宅しますが、インタビューは、その時に行われました。

 息子曰く「母は、自分の人生のことは、全て自分で決めてきた人です。祖母の介護をするということも29年間住んでいたオーストラリアを去るということも、迷いなく決めました。そんな母のことを知っているので、自分の最期がきた時に自ら死んでいく自死幇助のオプションを持ったことは驚きません。むしろ応援したいと思っています。ただ、母がスイスに行くと決めた時、僕が連れて行けるのかどうかは、分かりません」。

 親バカですが、とても感心しました。残念ながらこのインタビューは番組では使われませんでしたが、使われなくてよかった!「毎アル・スピンオフ」を製作したいと思わせてくれたからです。認知症の介護を超え、母から娘へ、そして娘は母になり息子へ命をつなぎ、命の終わりを見据える。母も私も最期に向けてどう生きるのか。スピンオフは、そんな壮大な物語になるだろうとワクワクしています。撮影初日は、2月16日。息子の帰宅を待って関口家の墓でする予定です。

2019年3月