コラム「母を撮る」

母の誕生日

ケーキを食べ、ピースサインの母(右)と私
(C)NY GALS FILM

 母は、9月4日の昼食後に倒れて以来(10回目!)さらに意識低下が少しずつ進み、寝たきりになってしまいました。

 母本人のこだわりは、ずっと次の3点でした。

 ①ボケたくない
 ②寝たきりになりたくない
 ③ポックリ死にたい

 残念ながら①と②は、果たせませんでした。でも、③は、何とか叶わないものか。10回も意識消失で倒れても不死鳥のように蘇ってきた母のことですから、最期こそ本人の希望を叶えられたらいいとずっと思ってきました。

 そして、先月の9月22日、母は、89歳の誕生日を迎えました。初めてベッドの上で誕生日を祝うことになりました。思い返せば、母の誕生日を撮り始めたのは、ちょうど10年前の79歳の時でした。「ボケた♪ ボケた♪」と明るく歌う母を自ら撮りながら、その明るさに救いを感じたものです。

 10年ひと昔と言いますが、母を撮り続けたからこそ見えてきたことがたくさんあります。最も感嘆することは、母はカメラの前では、自信に満ちた主演女優であるということです。意識しているのか、していないのか、母は、堂々とカメラの前で自身と自身の認知症をさらけ出して見せてくれます。こんなにも素晴らしく、複雑で、人間臭い母は、ずっと被写体として最高であると思ってきました。だから、母の体調は、あまりよくないにも関わらず、今年の誕生日も過去9回と同じように大いに祝って撮影しよう。そう考えて今年は、カメラマンに撮影をお願いしました。ただ、調理学校やら、バイトで忙しい息子の帰宅は叶わず、電話のみの参加となりました。

 「おばあちゃーん!89歳のお誕生日おめでとう!!」。息子の声を聞いた途端、母は、涙にくれました。母と息子には、私が入り込めない絆があります。「孫は子よりもかわいい」。息子も母の認知症との付き合いは、10歳以来ですから、この8月で20歳になった息子は、ベテランの域ですよね!

 私は、今年も母と息子が大好きなホールのショートケーキを用意しました。ロウソクをたくさん立ててしまうと消せないと思ったので、8と9の数字のロウソクにしました。(こんなところもパーソン・センタード・ケア!)母は、元気がなかったものの、しっかりとロウソクを吹き消し、大喜びして拍手までしました。そして、出ました、ピースサイン!

 しかし、まさかこの89歳の誕生日が、最後になるとは・・・(次号に続く)

2019年10月