家族の会だより

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「優しくできない……」家族の葛藤

家族の会・田部井康夫副代表

 認知症は今、誰もが直面する可能性が高い病気です。私は、認知症になった母を妻と共に看取って20年になります。妻は、その後認知症となった実父を介護する実母を手伝い、今度は、95歳になったその母が認知症となり、世話をする弟夫婦の手助けをしています。都合3人の介護を経験することになりました。その母が骨折、入院し手術を受けました。今、私たち夫婦の夢は、近く結婚する長女の結婚式に母を連れ出し、冥途の土産を作ってやることです。

 私自身は介護職の経験もありながら、母には全く優しく接することが出来ませんでした。その経験は、今もかすかな痛みとして残っています。しかし、妻の母に対してはごく自然に優しく接することができ、時には妻をたしなめたりもしています。自分でも、驚くほどです。デイサービスに来る人たちや義母には自然に優しくできるのに、実の母には優しくできない、この落差はいったいどこから来るのでしょうか。

 そして、私のように、もっとも近しいはずの認知症の家族に優しくできない自分がいやになってしまう介護家族は減ったのでしょうか?

 2012年、「家族の会」が行った「認知症の介護家族が求める家族支援のあり方研究事業報告書」があります。その中で「優しくできない自分に嫌悪感を感じるときがありますか?」との問いに、回答者526人中426人(80.7%)が「はい」と回答しています。介護家族の葛藤は解消されてはいないのです。それは、日々受けている電話相談から受ける実感とも共通しています。

 この葛藤を共有し、介護者どうしが励まし合い助け合って解消を図る取り組みの意味を、そして、それに取り組んでいる「認知症の人と家族の会」があることを、介護者を含め、一人でも多くの人に伝える努力を、これからも続けてゆきたいと思っています。

2019年6月