家族の会だより

早期発見・診断は本人も家族も楽になる

鎌田晴之・認知症の人と家族の会常任理事

 「私、もうつぶれそう」。東京に住む妹から突然電話がかかってきたのは、14、5年前のことでした。妹の話は、同居する母から訳の分からない事で夜中に何度も起こされるなどと介護疲れを訴える内容で、時折上京して会う母の様子からは想像もできない話ばかりでした。私が東京から長野に移住して20年経っていました。

 介護職であった妻とともに駆け付け、本人の様子を確かめ、妹の話を改めて聴きました。母は近所の診療所では老人性のうつと診たてられ、服薬したものの良くならず、次に紹介された病院ではパーキンソン病の疑い、との診断でしたが、やはり快方には向かいませんでした。今度こそ、と訪れた医大の附属病院で、聞いたことのない「レビー小体型認知症」という病名を伝えられました。

 母は78歳ごろから症状が顕著になり、部屋の隅をじっと見つめて『〇〇がそこに座ってる』と不安そうに訴えたり、大声で「なんでこんなに遅いの!」と寝言を叫んだりしていました。訳が分からず困惑していた私たちも、医師の説明でようやく母の言動はレビー小体型認知症という脳の機能障害から来ることで、原因のないことではなかった、と理解できました。はっきりするまで3年ほどかかりました。

 当時は、福祉施設の職員でも「レビー小体型認知症」を知る人はほとんどいませんでしたし、職業柄アルツハイマー型認知症の知識がある妻も、母が認知症であるとは思っていませんでした。母は2008年11月に93歳で亡くなりましたが、言動に不安が募った生前の3年間は本人はもとより家族にとってもつらい時間でした。

 「家族の会」のつどいに参加する人の中には、認知症と分かるまで10年かかったという人もいます。「なんか変だな」。そう感じたら診察に向かう事が当たり前になり、どんな医療機関でも正確な診断が可能になれば、認知症の人と家族の苦労はもう少し軽くなるかなと思っています。

 鎌田晴之・認知症の人と家族の会常任理事

2020年1月