家族の会だより

認知症の人の激しい言動を理解するための3原則

 認知症の人は暴言・暴行・興奮・拒否などの激しい言動を示すことが少なくありません。「介護者に向かって暴言を吐く」「突然怒り出して周囲の人に殴りかかった」「やさしく説明したのに聞き入れない」などのように、認知症の人が一次的に激しい言動をすると、多くの人は考えているように思います。しかし、私の考えでは、認知症の人の言動の大部分は二次的な言動、つまり周囲の人の言動に対する反応(リアクション)であると思っています。認知症の人に接する者が、次にあげる3つの原則に抵触した場合に、認知症の人は激しい言動をすると考えます。

 第1原則 本人の記憶になければ本人にとっては事実ではない

 「何度も同じことを言わないで。うるさいよ」「今説明したばかりでしょう。どうして分からないの」「あなたも納得してくれたじゃないの」などと言っても、本人は納得しません。なぜなら、本人の記憶から消えているので、周囲の人が言うことは自分にとってありえないことなのです。事実関係を認めさせようとすることはあきらめて、「そうね、私の勘違いだったかしら」のように、中断したほうがよいでしょう。

 第2原則 本人が思ったことは本人にとっては絶対的な事実である

 「この人が私の大切にしていたものを盗んだ」「(食事をしたことを忘れて)まだ食べていない」「(記憶が昔に戻って)私の夫はもっと若い。こんなおじいさんは私の夫ではない」等、認知症の人の世界では、絶対的な事実としてとらえられます。正しく教えようと考えて否定すると激しい反発が出てきます。まずは受け止めて別の話題に切り替える方が現実的な対応と言えるでしょう。

 第3原則 認知症が進行してもプライドがある

 認知症が進行しても、プライドはしっかり残っています。「どうしてこんな簡単なことができないの」などと言われると、プライドを傷つけられたと感じて、怒りだすことがよくあります。プライドを傷つけない接し方が基本です。

 杉山孝博・認知症の人と家族の会副代表理事・医師

2020年4月