家族の会だより

結成10年 新しい時代へ発信を

家族の会・川井元晴理事

 私が認知症の人と家族の会に入会したのは2002年8月で、故郷の母親が認知症と診断され父親が介護を始めた頃だったと記憶しています。私自身は山口県で、医学的な観点から認知症の人とご家族を診療していましたが、母親については年2回の帰省時に様子を見ることしかできませんでした。実家では、医療や介護どころか家事一切に関わったことのなかった父親が母親の面倒を一人で見ることとなり、体力的、精神的にも混乱していましたが、幸い、介護保険制度を活用できる時代でしたので、ケアマネージャーをはじめ多くの方々にサポートしていただき自宅介護ができました。

 家族の会には、11年に山口県支部設立準備会に誘っていただき、支部代表に就任したことから本格的に関わることになりました。活動の3本柱の一つである「つどい」では、ご家族の悩みや望みがさまざまで奥深いものであることを、父親や母親のことと重ねて感じています。

 私は図らずも、医療者、介護者、家族の会支部代表の3つの立場から認知症の人やご家族、支援者と関わることになりました。共通しているのは、認知症は進行し治癒しないというのが大前提になっていることです。10年以上新薬が登場していない現状では致し方ないですが、昨年来、待望であったアルツハイマー病の根本的治療薬が、最近アメリカで承認されました。日本でも早期のアルツハイマー病が治療可能になれば、認知症を取り巻く状況が一変するのではないかと期待しています。一方、新薬が治療の適応にならない場合や、アルツハイマー病以外の認知症の人と家族にとっては厳しい現実と向き合うことに変わりなく、家族の会はその両方の立場で活動を求められると思います。

 山口県支部は今年で結成10周年を迎えます。10月31日には家族の会の全国研究集会を山口県で開催することとなりました。新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、オンラインも交えた開催ですが、認知症の新時代にむけて発信ができればと考えています。

 認知症の人と家族の会理事・川井元晴(山口大学医学部神経・筋難病治療学講座教授)

2021年6月