治療とケア 納得して選択を

川井元晴
前回このコラムを担当させていただいたのが2021年7月で、ちょうど3年前になります。当時はアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」が米国で承認された時期に重なりました。残念ながら日本では承認されないままでしたが、開発はさらに進歩して昨年「レカネマブ」がついに日本で承認され、現在はその使用が拡(ひろ)がっています。認知症の人と家族の会の会員の中でも関心が高まり、活動の3本柱の一つである電話相談に関わる相談員への研修や、都道府県支部で勉強会が開かれました。
治らない病気の代表でもある認知症について、「治る」「治せる」薬が世に出ることは、認知症の人と家族にとって切実な願いです。新薬はその願いの実現には至らないようですが、大きな一歩を進めたような気がします。副作用や価格など課題はあるにせよ、早期アルツハイマー病の人と家族にとって福音であることを願います。認知症の前段階である軽度認知障害の状態でアルツハイマー病と診断される方が増加するにつれ、その方々の支援をどのように行うのか、家族の会としても大きな課題になるのではと感じています。
一方で、通院が困難、経済的理由、MRIで異常がみられた、副作用への不安などさまざまな理由で新薬を使いたくても断念される方がおられるのも事実です。さらには、既に進行したアルツハイマー病の人や、そもそもアルツハイマー病以外の原因で生じた認知症の方はレカネマブの効果が期待できないため、言わば「取り残された」感覚に陥るかも知れません。
家族の会の会員の方が介護されている認知症の人にはアルツハイマー病であっても既に新薬の効果が期待できない人も多くおられます。そのような方々には現状の治療とケアがますます重要になると思います。認知症の人と家族を取り巻く状況が大きく変化して、ケアだけにとどまらず治療についてもよく考え、各々が納得の上で選択することが求められる時代に到達しつつあるのだと感じています。
認知症の人と家族の会理事(脳神経筋センターよしみず病院副院長)川井元晴
2024年6月