本人のつどい 広がる笑顔と会話

自治体が認知症本人の方を委嘱する「地域版希望大使」。2020年9月、三浦繁雄さんが静岡県の委嘱で大使に就任したのを機に、21年1月より三浦さんに関わっていただき、「家族の会」の静岡県支部本人のつどいを始めました。現在は同県作業療法士会の支援を受けて開いています。
本人のつどいの会場は、通常の家族同席のつどいの場の隣室です。まずはラジオ体操で体をほぐします。曲が流れれば自然に体が動きます。次にモルックやボッチャなど作業療法士が用意してくれたゲームに挑戦します。Sさんはこだわりが強く、なじむまでに時間を要しますが、気に入ると何度も挑戦します。できない人にできる人が教えることもあります。
希望を聞き、ユーチューブで曲を流すこともあります。加山雄三が大好きなKさんは、「海その愛」をおおらかに歌います。アリスファンのYさんは谷村新司の命日に「チャンピオン」を歌い、偲(しの)びました。グループホームから毎回参加されている元ピアノ教師のTさんは「花が咲く」がかかると唇が、指が動きます。自然に笑顔になり、その笑顔は他の人にも広がります。
皆さん、ご家族と同席のつどいでは言葉を発することもなく座ったままの方々でした。隣の部屋にいるご家族にも笑い声は聞こえます。言葉での表現はなくとも、楽しんでいる様子は伝わっているようです。
ある日のつどいに参加したOさんは4人きょうだいの長女。小学生の頃は妹をおんぶしながら家事手伝いをし、結婚せず地元の企業に定年まで勤務していました。数独が得意のDさんは看護師として働いた後養護教諭となり、定年後はボランティア活動や筋トレ教室の講師をしていました。「妹の家にいて、食器洗いなどまだできることがあるのにさせてもらえない」「デイサービスに行ってもおもしろくない、筋トレなら自分の方が得意なのに」。ゲームの合間の二人の会話は本人ミーティングになっていました。
つどい終了後は、近くのステーキ屋で昼食をとり解散です。参加するご本人たちの入れ替わりもありましたが、静岡県支部の本人のつどいは5年目を迎えました。
鈴木敦子・認知症の人と家族の会理事 静岡県支部副代表
2025年3月