家族の会だより

変わるのは周りの人たち

丹野智文・認知症の人と家族の会理事

 認知症と診断されて自分自身が感じた事は、認知症と診断されたからといって次の日から何も変わりませんし、1週間後、1カ月後も変わらないのです。変わるのは周りの人たちなのです。

 心配から1人で出かけるのを禁止したり、財布を持つのを取り上げたりしたら当事者はすべてを諦めてしまいます。気持ちが落ち込んで鬱(うつ)になってしまいます。

 皆さんは優しさから「失敗させないように」と先回りをしていませんか? 先回りをされると、最初は嫌でも何でもやってもらっているうちに楽になり、受け入れてしまいます。そうすると支援者や家族がいないと不安になる依存の状態を作り上げてしまいます。

 認知症の症状から失敗したり物忘れが増えてきたりすると、自信がなくなってしまいます。私も症状はありますが、工夫することで補っています。失敗するから工夫をする、工夫するから成功体験となり自信を取り戻すのです。

 最近では認知症の当事者の「自立」が大切と言われます。そう言われると自分でやることだと思ってしまいますが、私は違うと思うのです。サポートしてもらいながらもできることは自分でやる、そして認知症の症状が進行していっても自分で決める、自分で選ぶ「自律」はできると思うのです。できないことは人にお願いしつつ、施設に入るのを自分で決めたり選んだりするのも自律なのです。

 進行していってもより良く生きることはできるのです。今までは道具や環境がありませんでした。それが現在はスマートフォンを使えばそれが脳の一部となり、困らないようにできるのです。

 コンビニに行けば24時間食べ物や下着など必要な物が買えるようになっています。それらを活用して当事者も家族も諦めないで過ごせる環境ができるのです。

 時代は変わっていますが、周りの人たちの意識が変わっていないと感じています。認知症になっても安心な社会だけではなく、皆さん自身が安心して認知症になれる社会を当事者と一緒に考えてみませんか?

 丹野智文・認知症の人と家族の会理事

2025年6月