家族の会だより

今の精いっぱい ともに生きる

原等子・認知症の人と家族の会理事、新潟県立看護大学教員

 認知症は、人と人との関係が壊れやすくなる病です。認知症の原因疾患が何であっても、進行とともに周囲の人との関係は大なり小なり変化が必要となります。人は変化に弱く、変化を受け入れるにはエネルギーを要します。

 認知症は、人として大切にしたい思いを蝕(むしば)む病です。自分らしくありたい思い、築いてきた誇り、ささやかな幸せを感じるひと時を、奪われるような気持ちに苛(さいな)まれます。堅牢(けんろう)だと思っていた城は砂の如(ごと)く崩れやすいものです。

 私たちが、認知症の人として、認知症の人の家族として、認知症の人たちとともにある市民として、認知症とともに生きていこうとする時、私たちには大きな思考の変換のエネルギーが必要となり、今まで通りにあろうと抗(あらが)っても、どうしようもない無力感を感じることもあります。

 私たちは、認知症の人とともに希望を持ち続けたいと思います。今までできていたことを少しの支援でささやかに取り戻す喜びを分かち合いたいと思います。それでも指の間から零(こぼ)れ落ちていく砂のように、崩れゆくことを止められない切なさを思います。それでも大切な家族であり、友人である認知症の人と過ごす大切な時間を守りたいと思います。

 祖母も、父も、母も、そしてささいな喜びをともに分かち合ってきた友も、逝ってしまいました。頑張れた思いもあれば、無念な思いも遺(のこ)ります。でも、諦めたくない、今を生きる人たちと、今の精いっぱいを一緒に生きていきたいと思います。

 私は看護師としての経験と大学教員としていくつもの医療機関を見てきた経験、そして認知症の人と家族の会での活動経験から、現場の大変さとジレンマがあることを理解しつつ、それでも今の医療や介護に対し問いたいのです。

 精いっぱい、認知症の人の真の声を聴き、生きることに寄り添い、ともに生きる家族の哀(かな)しみや苦悩に寄り添い、それぞれが希望を持てるように関わっているかと。

(原等子・認知症の人と家族の会理事、新潟県立看護大学教員)

2025年8月