アルツハイマー病の危険因子――血管性認知症

生活習慣改善で予防効果

 アルツハイマー型認知症は、まだ抜本的な治療法が見つかっていない。しかし、希望の光は見えている。最先端の認知症研究に携わる、国立研究開発法人「理化学研究所脳神経科学研究センター」の西道隆臣チームリーダーに、アルツハイマー病研究の歴史から最前線までを連載で報告してもらう。

 本連載の話題はアルツハイマー病です。しかし、その前に血管性認知症について解説しておいた方がよいと思います。アルツハイマー病を知る上で大変参考になるからです。とある団体に、「お酒を飲んでラーメンを食べる会」という同好会があったそうです。しかし、その会は半年で解散しました。会員が立て続けに心筋梗塞や脳梗塞で倒れ「このような食生活を続けるのはよくない」となったわけです。

 アルコールと中性脂肪を同時に摂取すると、血中の中性脂肪が10倍近く上昇することが分かっています。中性脂肪とLDL(いわゆる悪玉コレステロール)の蓄積は、動脈硬化の原因となって脳梗塞を引き起こし、その結果、脳が虚血状態となります。そうすると、神経細胞への酸素やブドウ糖などの供給が止まり、急速に神経細胞死が進んでしまいます。また、高血圧が最大の原因である脳出血も、血液の塊が脳組織を圧迫して破壊し、血管性認知症の原因になります。これらは急性疾患と言ってよいでしょう。アルツハイマー病の場合は神経細胞死(神経変性)が緩やかに進みますから、慢性疾患と呼んだ方が正しいと思います。ただし、神経細胞が死滅する点は共通しています。

 かつては、認知症のうち血管性が最多でした。今でも約20%を占めますし、アルツハイマー病の危険因子であることも分かっていますが、努力によってさらに減少させることができます。一つは、生活習慣の改善です。喫煙は絶対によくありません。飲酒は適量(日本酒やワインにして一合から二合)まではよいとされていますが、LDLや中性脂肪の高いものと一緒に取るのは避けた方がよいと思います。それでは、「ラーメンと餃子とビールという至福の組合せは一生いけないのか?」と思われるかも知れませんが、二週間に一回程度でしたら大丈夫だと思います。(それでも、高齢者にはお勧めできません。)

 動脈硬化に関しては、塩分の取りすぎとそれに伴う血圧の上昇も原因ですから、自分自身で総摂取量を検討し調整する努力が必要です。塩辛いものが多い外食は避けるようにしましょう。適当に運動し(歩くだけで十分です)、適切な量の水分を摂取することは重要です。急な体温変化も血圧を大きく変動させるので避けるべきです。また、スタチン系という医薬品は血中のLDLや中性脂肪を下げる作用があります。しかし、副作用がないわけではありませんから、できれば生活習慣で予防することが望ましいと思います。とはいえ、私自身、中性脂肪が高く、リピトールというスタチン系の薬を服用しています。

 いったん卒中で倒れた場合は、速やかな治療が最も大切になります。血栓症は、血栓の除去が遅くなるほど脳機能障害が進行します。血栓を溶かす薬や、血栓を直接取り除く治療がありますから、救急外来に行くまでの時間が成否を決します。四肢の麻痺や認知症は患者さんのQOL(生活の質)に大きく影響します。血管性認知症は血管の老化を抑制することによって予防できます。

2018年8月