シニア医療最前線

第2回 骨粗鬆症/検診受診率わずか5%

シニア世代の健康や医療に関する最新情報を、専門的な視点からわかりやすく解説します。認知症や生活習慣病など、日々の暮らしに役立つテーマを取り上げます。

骨折予防の第一歩 70歳までに一度は骨密度検査を

医学ジャーナリスト 高野聡
医学ジャーナリスト 高野聡

 加齢や閉経によるホルモンバランスの変化で骨がスカスカになる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)。国は1995年に老人保健法に基づく骨粗鬆症検診(骨密度検査)を始めたが(現在は健康増進法に基づく)、受診率は全国平均約5%と低い。骨の変化に気づかず転倒し救急搬送される例も少なくない。新潟リハビリテーション病院の山本智章院長(整形外科)は「70歳前に1度骨密度検査を受けて、自分の骨の状態を知ってほしい」と呼びかける。

 人の骨量は生後から20〜40歳ごろまで最大量を維持した(ピークボーンマス)後、男女ともに徐々に減少する。女性の場合、閉経を機に急激に減少する。20〜44歳の健康な男女の最大骨量のYAM(ヤングアダルトミーン、若年成人平均値)を100%として、70%未満まで低下した状態が骨粗鬆症だ。

 「高齢化率(65歳以上人口の割合)が10%未満だった80年代ごろまで日本で骨粗鬆症はほとんど認識されていなかった。しかし2024年には29・3%と高齢化が急速に進み、骨粗鬆症による高齢者の骨折(脆弱<ぜいじゃく>性骨折)が増えている。今後もこの傾向は続く」と山本さんは指摘する。

 脆弱性骨折が起きやすいのは、主に手首(橈骨<とうこつ>遠位端)、二の腕(上腕骨近位部)、背骨(脊椎<せきつい>椎体)、足の付け根(大腿<だいたい>骨近位部)だ。中でも大腿骨近位部骨折は歩行困難などにつながり、要介護状態の契機になりやすい。25年時点での大腿骨近位部骨折の発生数は80年代の5〜6倍に相当する25万件と推計されている。

かかとに超音波を当てるQUS法で調べた、筆者の骨密度 適正と判定された

 山本さんは「75歳以上の高齢者が骨折すると、生存率が低下する。特に大腿骨骨折後の低下が著しい。『1年以内の死亡』が2割という報告もある」と話す。

 脆弱性骨折の影響は、医療費やその後の介護費用にも及ぶ。大腿骨骨折の場合、治療の第1選択肢は手術のため、高齢でも手術は避けられない。医療費がかかるうえ、要介護や再発のリスクも高まる。日本老年医学会は、骨折を機に介護が必要になった場合の5年間の介護費用の自己負担額を1540万円と試算している。

 95年に導入された骨粗鬆症検診は40歳から70歳まで5歳ごとの女性が対象。自治体によって補助額は異なるが、本来なら約4500円かかる検査が無料から1000円程度の自己負担で受けられる。

 一方で、近年は男性の骨粗鬆症リスクも指摘されている。推計患者数約1590万人のうち男性は約410万人だが、骨折後の死亡率や合併症発生率などの重症リスクは男性の方が高い。

 骨密度の状態をみて、骨粗鬆症かどうかをふるい分ける(スクリーニング)検診では、手のX線撮影を利用したMD法や、かかとに超音波を当てて調べるQUS法などが使われる。骨粗鬆症の診断ができれば、薬剤による治療が可能になる。近年は「骨を作る薬(骨形成促進薬)」が登場し、治療の選択肢が劇的に変化した。

 山本さんは「研究報告では3年間の薬物治療によって椎体骨折発生率が有意に低下し、年齢に換算すると約20歳分の骨の若返りに相当する骨折予防効果が示されている」と評価する。

 「生命の危険や重大な障害を残す可能性がある」「早期発見により治療・治癒が可能」という骨粗鬆症の特徴は、検診が勧められるがんと同じだ。山本さんは「高齢者が骨折を起こせば人生が変わってしまう。自治体の骨粗鬆症検診は女性だけが対象だが、早期に治療を始めるためにも、男女を問わず70歳までに1度は必ず骨密度検査を受けてほしい」と訴える。

執筆者プロフィール

高野 聡(たかの・さとし)
毎日新聞1989年入社、メディア情報部、船橋支局、千葉支局などを経て96年、東京本社科学環境部。埼玉医科大の性別適合手術、茨城県東海村臨界事故など科学環境分野のニュースを取材。2009年より大阪本社科学環境部で新型インフルエンザパンデミックなど取材。10年10月より医学誌MMJ(毎日メディカルジャーナル)編集長、東京本社医療福祉部編集委員、福井支局長などを歴任。毎日新聞毎日医療プレミア記者。