シニア医療最前線

補助人工心臓の効果と課題

シニア世代の健康や医療に関する最新情報を、専門的な視点からわかりやすく解説します。認知症や生活習慣病など、日々の暮らしに役立つテーマを取り上げます。
医学ジャーナリスト 高野聡
医学ジャーナリスト 高野聡

 日本人の死因第2位である心疾患。そのうち約2割が年間約10万〜15万人が発症する急性心筋梗塞(こうそく)だ。50代以降から急増し、高齢になるほど発症リスクは高まる。発症すれば約3割が死亡、と致死率も高い。

 その急性心筋梗塞治療に役立つとして2017年、米国で開発された補助人工心臓の「インペラ」が日本で承認された。どのような医療機器なのだろうか。

 「心臓の表面には心臓に酸素や栄養を届ける冠動脈が3本ある。右冠動脈、左冠動脈前下行枝、左冠動脈回旋枝だが、左冠動脈の根元が詰まったり、複数の冠動脈が狭くなったりすると、心原性ショックという血圧が低下し循環不全の状態になる」

 昨年8月、佐久医療センター(長野県佐久市)で、救急搬送された急性心筋梗塞患者の治療にインペラを使用した近澤優太医師(現浅間南麓こもろ医療センター)は、急性心筋梗塞の怖さをそう説明する。

 心筋梗塞を起こした心臓は、血液を循環させるポンプ機能が低下し、動脈に血液を送り出せなくなる。インペラはこの機能を代替する。救急隊から心電図などの報告を受けていた近澤さんはこの機器が役立つと判断して準備していた。

 インペラは、先端部にスクリュー(ネジのネジ山のようならせんの形状)を仕込んだ、太さ4・6ミリ、長さ約1メートルのカテーテル(管)。太ももの付け根の動脈から挿入し、先端のスクリュー部分を心臓の左心室まで届かせて作動させると、スクリューが毎分数万回という超高速で回転し、左心室の血液を大動脈に送り出す。近澤さんらはこれで血液の循環を保ちながら、冠動脈の詰まりを除去する治療を並行して実施した。

心臓に入れたインペラの図解。先端のスクリューを左心室に入れ、中の血液を送り出す=日本アビオメッド提供

 「血液が心臓から送り出せなくなった時点で、心臓には血液がパンパンにたまって負担がかかっている。早期回復のためには、血液を送り出して負荷を取り除く必要があるが、インペラを使えば早い」と、近澤さんはその効果を指摘する。

 インペラ登場前、機械的な血液循環補助装置として大動脈バルーンパンピング(IABP)やコロナ禍で有名になったECMO(体外式膜型人工肺)があった。

 IABPは先端に長さ15〜20センチの細長い風船がついたカテーテルで、太ももの血管から挿入し心臓の拍動にあわせて、風船をしぼませたり、膨らませたりして血液循環を補助する。ただ、送り出せる血液量は少ない。ECMOは本来の血液の流れに逆らって血液を循環させるため、心臓に負担がかかるという課題があった。

 インペラの長所は送り出せる血液量の多さだ。現在日本で使用できるのはインペラCPとインペラ5.5という2種類だが、CPは毎分3・7リットル、5・5は同5・5リットルを送り出せる。IABPの約0・5リットルとは桁違いだ。近澤さんは「IABPに比べ循環も安定している」と話す。

 日本で承認された背景には海外の画期的成果を見た医療界からの要望があった。そこで臨床試験を実施しない代わりに、承認後の全症例を登録する制度が導入された。これまでに約1万2000例超の症例が登録されている。

 現在の課題は、実施医療機関の地域的な偏りだ。患者の生命に直結する補助人工心臓は、「高度管理医療機器」と位置づけられ、導入には関連学会でつくる団体の認定を受ける必要がある。今年6月現在の導入施設は全国で281。東京都には30以上が集中する一方で、長野県では4施設と地域差が大きい。

 近澤さんは「機器を扱うには医師の習熟も必要。使用機会が少なければ、習熟できないので、施設数を限定して1施設に患者を集約させる必要はあるだろう。だが限定しすぎると、遠隔地の患者が利益を享受できない。救急体制の強化でカバーすべきか、施設数増加でカバーすべきか、難しい問題」と話す。

執筆者プロフィール

高野 聡(たかの・さとし)
毎日新聞1989年入社、メディア情報部、船橋支局、千葉支局などを経て96年、東京本社科学環境部。埼玉医科大の性別適合手術、茨城県東海村臨界事故など科学環境分野のニュースを取材。2009年より大阪本社科学環境部で新型インフルエンザパンデミックなど取材。10年10月より医学誌MMJ(毎日メディカルジャーナル)編集長、東京本社医療福祉部編集委員、福井支局長などを歴任。毎日新聞毎日医療プレミア記者。