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認知症にどう対応するか  沖縄シンポ

 公益財団法人認知症予防財団と毎日新聞社、琉球新報社共催のシンポジウム「認知症にどう対応するか」(厚生労働省・日本医師会など後援、アメリカンファミリー生命保険会社協賛)が7月8日、那覇市のハーバービューホテルクラウンプラザで開かれた。780人が参加し、順天堂大学の新井平伊教授の「大きく変わる認知症医療〜診断・治療から予防まで」と題する基調講演や、映画監督の関口祐加(ルビ・ゆか)さんが認知症の母親にカメラを向けたドキュメンタリー「此岸(ルビ・しがん)、彼岸」の映像クリップを映しながらの特別講演などに耳を傾けた。

順大の新井教授 基調講演

次世代薬「5年後にも」

基調講演をする順天堂大学の新井平伊教授

 あらい・へいい 順天堂大学医学部精神医学講座教授。1953年生まれ。1984年順天堂大学大学院修了。東京都精神医学総合研究所主任研究員、順天堂大学医学部講師を経て、1997年より現職。1999年、我が国で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。日本老年精神医学会理事長、日本認知症学会理事、国際老年精神医学会(IPA)理事。おもな著書に「アルツハイマー病のすべてがわかる本」(講談社)、「最新アルツハイマー病研究」(ワールドプランニング)など。

 中国のことわざに、敵を知り、己を知れば百戦危うからず、という有名な言葉がありますが、この敵のところを認知症、そして己のところを症状と、そして百戦のところを人生と置き換えていただければ、まあ認知症をよく知り、自分やご家族の症状をよく知っていただければ、人生大丈夫だということに皆さんはなってもらいたいと思います。

 認知症を引き起こす病気はたくさんあるんですけれども、アルツハイマー病は認知症の半分以上を占める。この病気が我々にとっては大敵で、何とかしたい病気です。

 で、どのように治療するのか。診断法がだいぶ進みました。MRIでアルツハイマー病に重要な、記憶に関係する海馬の委縮を早く見つけることができる。また脳の血流検査はMRIよりも早期に病気を検出することができる。診断精度が非常に向上している。

 そして今年は新しい薬が三つ誕生しました。レミニール、イクセロンパッチ、メマリーが加わり4剤体制になった。アリセプトしかなかったときは、副作用や相性の問題で使えなかった方も、ほかの薬が使える。飲み込む薬だけでなく、ゼリー、張り薬もあって、患者さんに合わせられる。メマリーはほかの薬と併用が可能です。大きな進歩です。

 今後の話ですが、アミロイドβ蛋白というものが脳内にたまり、これがどうも悪さをしているということが分かってきた。これをたまらないようにすることがいま世界中で研究されている。次の世代の薬は5年から10年後に出てくると思います。みなさんはそれまで元気でいてください(会場どよめき)。

 で、治療というのは薬だけではありません。リハビリとか、介護を工夫するとか、ソフト面、ハード面の配慮をしたり、法律を整備する、あるいは施設を地域で充実させる。こういったことがうまくかみ合って、初めて認知症の治療はできてくるのだと思います。

認知症がなくなれば 幸福になれますか
認知証があると 幸福にはなれませんか

 私の恩師に飯塚礼二先生という方がおられます。たとえば急激に環境が変化した場合、それから患者さんが失われた能力を自らに求めたり、周りの人が患者さんに期待しすぎたり、逆に周りの人が患者さんを無視する。こういう時は非常に精神的に揺れるんだと言われている。落ち込んだり興奮したり、場合によっては暴力をふるったり、妄想する。その心理的な動きを周りの人がちゃんと理解してあげることが、薬を使うよりよほど重要で、それによって症状はよくなるということを言っています。重要なご指摘だと思います。

 それからご家族の生活も大事です。家族だけでやると長続きしません。行政、担当医、家族会、いろんなシステムがありますから、早めに相談する。デイサービスとか、ショートステイとか、さまざまな社会資源を適切に使って家族の生活も充実させる。そうでないと結局患者さんに当たってしまう。経済的、精神的な面で少しでも余裕をもつことです

 あとは予防のお話です。アルツハイマー病の予防はまだ根本的なことはできていない。でもある程度データがある。高血圧とか高脂血症、糖尿病といった生活習慣病を治療することは脳血管性認知症だけでなくアルツハイマー病の予防にもつながる。生活習慣病のある人はない人に比べ2倍近くアルツハイマー病になりやすいというデータもあります。

 沖縄は日本一の長寿県ですね。釈迦に説法みたいなこと言ってるかもしれませんが、20年、30年と毎日1合とか2合飲んでいる方で、40、50、60ぐらいになって、どうも今までより物忘れがある、仕事がはかどらないという場合、毎日飲む方は要注意です。休肝日とよく言われますが、実はお酒は肝臓より脳の中枢神経系の方が長期的には影響がある。これはアメリカのデータですが1800人、60歳の方の脳を調べたんですね。大体年齢と共に萎縮が出てくるんですが、一番萎縮が多かったのは、大量にお酒を飲む方でした、お酒はほどほどにされた方がいい。泡盛の県ですけど、躊躇しながらお話しました(笑)。

 最後ですね。ここが今日お話したいところなんですが、認知症がなくなれば、我々は幸福になれるのだろうか。また認知症があったら幸福になれないのだろうか。この二つは重要です。若年性アルツハイマー病の方ですけど、病気を受容するような状況が出てくる。患者さんとご家族は、病気でありながら人生を全うしようとする。近所の人やご家族との触れ合い、ちょっとした思いやりとか、多くの幸せを感じとるようなことがたくさん見受けられる。アルツハイマー病であっても幸せですというご家族が少なからずあります。

 認知症のない今の我々の方が毎日を無駄にして生きているんじゃないか、という気すらします。そういった方々のお手伝いをできる我々も生きがいを感じて、むしろご家族と患者さんから、幸福感をいただいている。そんな気がします。

2011年8月