「大震災と認知症」〜その経験を明日に生かすために〜 盛岡シンポ

基調講演する高橋智准教授

避難生活「初めが肝心」
岩手医科大准教授 高橋智さん基調講演

 震災に直面した時、認知症のお年寄りにはどんなケアが有効で、どうやって困難を乗り越えるかを考えるシンポジウム「震災と認知症」(認知症予防財団、毎日新聞社、岩手日報社共催、厚生労働省、日本医師会、日本歯科医師会、日本老年精神医学会など後援、アフラック=アメリカンファミリー生命保険会社協賛)が11月14日、盛岡市のアイーナホールで開かれた。震災の体験を踏まえ、日ごろからの地域コミュニティーづくりが大切という各報告者のメッセージに、うなづく聴衆の姿が見られた。

避難所の自治が進んだケースは--

 入所者が比較的少ない
 自治会代表がリーダー
 部屋が分かれずに生活

 私は震災2日目から遺体検案を行いました。津波は人びとを飲み込んで行くので、弱者が被害に遭うのは当たり前。今回の大震災と阪神淡路大震災で亡くなられた人の年齢構成を比較すると、阪神では若い人が亡くなっています。今回は圧倒的に高齢者の方が多い。津波が来たとき海沿いの施設の入居者が逃げ遅れ多くの犠牲者を出しました。一方、無事避難された方の多くは施設に入所しました。定員の2、3倍の人を受け入れましたが、対応が慣れているから、おじいちゃん、おばあちゃんは新しい施設で笑顔でした。

 次に被災直後に見られた認知症症状の悪化について報告します。認知症の症状というのは、病前の性格と生育・生活歴、身体の健康、脳神経の障害、社会心理学的な周囲との関わりが相互に関連して出てくると言ったキントウッドという人がいます。今回の震災では、恐怖、不安など環境の変化によって発災直後に認知症の方や高齢者の方には不安、焦燥、睡眠障害、興奮、徘徊(はいかい)などの症状がたくさん出ています。急がせる、無理強いするなど認知症の人にこれをしてはいけませんよ、という17項目を彼は掲げています。ケアスタッフはよくわかっていて、気持ちを尊重するケアが浸透しています。ただ今回の震災では、認知症患者の症状が悪化し、介護者は余裕を失いました。その結果、患者さんにできることをさせないとか、無理強いをしてしまい、症状の悪化した人が出ました。

 続いて強調したいのは、避難所生活での共助の重要性です。私は、環境の整った体育館とか教室の避難所はうまく行くだろうなと思ったのですが、1カ月たってみると、ここでは避難した人たちの自治が進まなかった。ところが、別の運動施設を利用した避難所は、土間ですきま風も通るようなところでしたが、1カ月後、入所者はきちんと整理整頓し、自分たちで食事を作り、休みに自分たちで外に出て語り合う場を作りました。避難所はスタートの環境次第でウサギとカメみたいだと感じました。

 避難所で自治に違いが出るのは何が関係しているのか、調べました。リーダーがいるかいないか、リーダーはどういう人がやっているか、避難所のタイプはどうか、年齢構成、避難所の環境、ボランティアが担う業務、それと食事を自分たちで作るかどうかなどを調べました。その結果、自治が進んでいたのは①入所者が100人ぐらいで比較的少ない②自治会代表がリーダーを担っている③避難所が教室ごとに分かれていなくてみんなが同じ体育館などで暮らしている④子どもの比率が高い⑤ものが整っていない--所でした。

 皮肉なことに避難所の生活はお年寄りには生活しやすい面もありました。1人暮らしだった老人が避難所でみんなと食事をとり、動くようになって、症状が良くなりました。

 被災したとき、自分の命は自らが守る自助、自分たちの町は自分たちで守る共助、そして県とか国のサポートの公助があります。これからのことを考えると、80歳以上のお年寄りに自助を求めるのは厳しい。公助に関しては、今回どの地域にも2日目には自衛隊が入りました。ですから、2〜3日間をいかに共助で結ぶべきかが大事で、自分たちの町を自分たちで守る地域は非常にスムーズに行きました。これは岩手力というのか、東北力か、田舎力か、被災後の避難所生活を送るうえでの大きなちからとなりました。

 次に仮設住宅での高齢者の日常生活のハードルについて話します。仮設住宅に入る前の避難所での生活は、お年寄りにとっては昔懐かしいものでした。ところが、すべてが同じ間取りの仮設住宅では、避難所より大変だということが分かってきました。自分の家がどこか分からない、新しい電化製品をどう使ったらいいか分からない。さまざまな問題が起きました。「仮設市街地づくり4原則」という考え方があり、例えば地域が一括で暮らす、あるいは被災地に近接して暮らす、目の前に被災地があって復興の様子を見ながら暮らすのなら耐えられる、語り会える場所を設ける、などの考え方は分かっていましたが、今回は残念ながらそれができませんでした。最初の頃は、仮設住宅に移るとゴールという考え方もありましたが、実はゴールではなくスタートなのです。

 最後に避難生活におけるハイリスクと認知症の発症についてです。発災直後から避難所を回って健康診断しました。避難所にいる1040人や在宅の約400人の血圧、コレステロールなどを調べました。その結果、半分の人は血圧が高くなっていました。またカップ麺ばかり食べていたので、コレステロール値が高い人もたくさんいました。認知症になりやすい体質になった人が今後どうなっていくか、追跡調査することが大事です。

 認知症へ進行しないようにするのは、薬も必要ですが、人同士のつながりも大事。やはりお年寄りに笑顔を取り戻すことが重要です。体を動かすプログラムを作り、いくつかの避難所を回りました。みんな集まり体を動かすことで、お年寄りに笑顔が戻りました。

 たかはし・さとし 昭和60年3月岩手医科大学医学部卒業、平成17年3月より現職、平成23年3月19日 いわて災害医療支援ネットワーク本部長。専門領域は老年期認知症。かかりつけ医主導の認知症早期発見と対応、孫世代による認知症講座などを通じて、認知症の地域連携を推進している。所属学会は、日本神経学会(評議員、専門医)、日本認知症学会(評議員、専門医)、日本老年精神医学会(評議員、専門医)、他。著書は、かかりつけ医とケアスタッフのためのBPSD対応マニュアル(南山堂)、いきなり名医!日常診療で診る・見守る認知症―かかりつけ医が知っておきたいこと(日本医事新報社)、他。

2012年1月