「ケア・コミュニティー」の視点を
東大大学院准教授 小泉秀樹さん特別報告
被災地の復旧・復興に向けて毎週1回以上岩手県に入りまして、支援活動を続けています。
復興には、超高齢社会に向けての「ケア・コミュニティー」という視点が大事だと考えています。エコの発想も確かに必要ですが、特に高齢者、障害者、子どものいる世帯がきちんとケアされる社会でなければいけません。
ここで言う「ケア・コミュニティー」とは、高齢者が可能な限り自立でき、孤立せずに暮らすことが可能で、さらに、元気なころの生活習慣をそのまま維持できる社会という意味です。
仮設住宅の時期は長いです。阪神淡路大震災の時は3〜5年でした。今回も相当長くなると思います。だから復興するまで我慢してほしいというのでは、高齢者のような弱者に必ずしわ寄せが行きます。
まちづくりというのは仮設の段階から復興後の形を視野に入れなければいけません。ところが、現実の仮設住宅は、早く大量に作ることだけに重点が置かれてしまい、生活する上で不便なものができてしまいました。
特に、みんなが集まることのできる場所(コモン)が不足しました。たとえば、みんなが集まって酒を飲む場所、昼間母親が相談し合う場所などがありません。仮設の事務所や店舗、工場なども役所の縦割り行政の弊害で、互いに協力したり、相談しないので、バラバラに建って無秩序に広がっています。
具体的に言いますと、仮設住宅は「南面並行配置」と言って、南面にリビングなど人が集まる家の配置が基本です。これは昭和30〜40年代の公営住宅のようなデザインで作っているのです。残念ながら、これでは家族はもちろん、親しい仲間と話し合う場がなく、人と人のつながりができないと思います。
高齢者には、どこが自分の家かわからなくなる人がいます。高齢者や弱者が暮らしにくい仮設はまずいと私たちは考え、コミュニティーケア型仮設住宅地の提案を各自治体に行いました。
そのポイントは①高齢者、子供の生活に配慮してケアセンター、診療所を設ける②職住接近で仮設区域内の雇用を確保する③住民の自治活動を支援する④交通サービスの提供--などです。
具体的には、それぞれの建物を向かい合わせの住宅にし、区域の中にはサポートセンターがあり、ウッドデッキによるバリアフリーのゾーンを設定しています。いわば路地のある「長屋」のイメージです。この提案を岩手県の遠野市、大槌町、釜石市が採用してくれました。
こいずみ・ひでき 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授。1964年東京都生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了後、1997年から東京大学大学院講師(都市工学)。2007年4月より現職。専門は、まちづくり、コミュニティーデザイン。研究成果をふまえつつ多くの市民団体、自治体とまちづくり・コミュニティーデザイン、都市計画の実践に取り組んでいる。また東日本大震災からの復興では、釜石市、遠野市、大槌町、陸前高田市などで、ケア・コミュニティーを実践的に展開している。著書に「スマートグロース」(学芸出版社)、「成長主義を超えてー大都市はいま」(日本経済評論社)ほか。
2012年1月