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認知症になっても安心社会を

市民後見人、育成  活動内容や意義、NPO会員寄稿

 この10年で徐々に認知されてきた「市民後見人」の存在が、いまクローズアップされている。その必要性を感じ、東京都品川区で早くから組織化に努めてきた本財団の元事務局長でNPO法人市民後見人の会会員の古賀忠壹さんに、後見人の活動と意義について寄稿してもらった。

筆者も事例報告者として参加したNPO法人市民後見全国サミット=東京都新宿区で3月
多くの人に「尊厳ある暮らし」  “職業”後見人だけでは限界

 「市民後見人」の存在が、にわかに注目されてきました。昨年の通常国会で、老人福祉法が一部改定され、市区町村に市民後見人の育成と活用を図る努力義務が課せられ、認知症高齢者の成年後見人(以下、後見人)として多数の市民後見人が必要であることを、国が明確化したからだと思います。これを機に、NPO法人市民後見人の会(東京都品川区)会員の一人として、その活動や考え方を知ってもらいたく寄稿しました。

 高齢社会を支える車の両輪として、介護保険制度とともに2000年に誕生した成年後見制度は、認知症や知的障害などの要因で十分な判断ができない人々の権利を守り、生活を支援していくものです。後見人は、被成年後見人(以下、被後見人)の「身上監護」や「財産管理」などの後見業務を行います。これまでは、親族を除くと主として弁護士、司法書士、社会福祉士など職業後見人と呼ばれる人たちが、第三者後見人としてその業務を担ってきました。

 しかし、認知症高齢者だけでも200万人を超える時代、理念的には200万人の後見人が必要です。職業後見人だけでは、後見を必要としている多くの人たちの「尊厳のある暮らし」を実現することはとてもできません。そこに登場してきたのが市民後見人です。

 私は、かつて、財団法人ぼけ予防協会(現・公益財団法人認知症予防財団)に勤務していましたが、認知症高齢者の現状を知り、認知症予防とは別の視点から後見人の必要性に気づきました。国内のさまざまな高齢者問題を扱う高齢社会NGO連携協議会(略称・高連協)が、各地で「市民後見人養成講座」を始めることになりました。団塊の世代がまもなく定年退職を迎える時期と重なり、退職後は自宅のある「地域」で後見を必要としている人たちを支援してもらい、退職者世代にとっても実りある後半生を送ってもらおうじゃないか、いう狙いもありました。

身上監護や財産管理  実務はさまざま
NPO法人が開催した市民後見人養成講座=東京都品川区で2月

普及へビデオ上映会 養成講座なども開催

 当時、高連協の役員の中に私を含め品川在住者が3人おり、この地にも市民後見人の組織をつくることにしました。06年に第1回目の養成講座を開催、受講生有志が集まって任意団体「市民後見人の会」を立ち上げました。2回、3回と講座を重ね同志を増やし、08年に東京都から特定非営利活動法人(NPO)として認証されました。

 品川区は、同区社会福祉協議会内に品川後見センターを設置するなど他自治体に比べ、積極的に後見活動を推進していたこともあってか、09年度には当会提案で区との協働事業が実現しました。区内全19カ所の地域包括支援センターを会場に地域住民を対象にした後見制度普及ビデオの上映会と年2回の養成講座を開催するというものです。こうした経過をたどりながら、最も重要な実践である後見人活動については今年3月末現在までの間、累計13件の後見人(保佐人含む)に就任しています。

 私たちが担当している被後見人のほとんどは独居で、親族がいても付き合いがありません。在宅生活をしていたある女性は、突然の徘徊(はいかい)行動で行方不明になり、担当者は警察に捜索願を出したり、自宅周辺を捜したりと、翌日、無事に保護されるまでとても不安でした。また、ある担当者は、火の不始末を心配する隣近所の人に、認知症に対する理解を求めたりもしました。高齢者施設入居の被後見人の一人は病院への入退院を繰り返し、その都度、各種手続きに病院に駆けつけるなど、後見人の実務は千差万別です。

 亡くなった人も3人おり、葬儀の手配や相続人調べなど死後の事務もやります。全てが試行錯誤の連続です。が、法人後見は、会員同士がそれまでの人生で蓄積した知恵を出し合い合いながら活動を進めていくことができます。

 この3月、東京都新宿区内で「成年後見制度を担うNPO法人市民後見全国サミット」という集会がありました。各地のNPO法人会員やこれから後見人を目指す人たちが参加しました。

 主催団体・さわやか福祉財団の堀田力理事長が、「市民後見人はNPOで!」と題する基調講演を行いました。その骨子は「市民後見人になろう」「市民後見人は、市民後見NPOに所属して活動しよう」「市民後見NPOを、地域包括支援センターの数だけつくろう」というものでした。

 高連協共同代表で弁護士でもある堀田さんは、「市民後見人がいなければ、認知症者の大多数の人間性が守れない」とし、理由として▽職業後見人数が決定的に不足▽親族は後見人として適格性を欠く例が少なくない▽ボランタリーな第三者である市民は純粋に被後見人の立場で発想し熱意をもって被後見人の利益を実現することができる、などと述べました。そして、▽専門的知識は、必要な時に専門家に判断を求めればいい▽被後見人を守るという意識(信念)を持っていれば「誰でも後見人になれる」と、参加者を勇気づけました。

 私も活動団体の事例報告者の一人として登壇し、本稿前半に記したようなことを、お話ししました。私たちの法人は、会員が、地域の住民として「ボランティア精神」で後見活動を行うとともに、「個人の尊厳」と「自己決定」に対する社会の認識を高めながら、市民後見人を育成していくことを目的としています。法人運営はけして楽なものではありませんが、この目的に沿って始めた運動を確かなものとしていきたい、と改めて考えています。

 講座で使用する自前のテキスト表紙には、「認知症になっても暮らせる安心社会を」というスローガンを記しています。そうです、アプローチの仕方は異なっても目指すべき社会は、認知症予防財団と同じなのです。

(NPO法人市民後見人の会会員、古賀忠壹)

NPO法人市民後見人の会ホームページ=http://www.shimin-kouken.net

2012年4月