「認知症110番」20年

電話相談、累計で1万8000件

 認知症予防財団の電話相談「認知症110番」がこの7月で満20年を迎えた。全国、そして海外からも寄せられた電話相談は累計で1万8000件。「細やかな気遣いのできた母が、今は自分の助けがないと生活できない」と話しながら泣く娘。「息子が変だ」と相談して若年性認知症の疑いがあり精密検査を勧められる父親。電話口からは様々な人間模様が垣間見える。相談者も嫁から独身の息子へと徐々に変化し、社会の移り変わりを映し出す。この20年の電話相談を振り返った。

受話器から人間模様

相談員、悩みに寄り添い 最多は介護方法の助言

09年に名称変更
電話に応対する相談員

 毎日新聞創刊120周年記念事業として日本医師会や経済団体連合会等の各団体、企業の協力で1990年3月に「ぼけ予防協会」が発足。2年後の92年7月、アメリカンファミリー生命保険会社(アフラック)の委託事業として無料電話相談「ぼけ110番」が開設された。

 2009年に「ぼけ予防協会」が「認知症予防財団」に名称変更されたことに伴い電話相談も現在の「認知症110番」に衣替えしたが、財団事務局内に専用電話回線を引いたブースを設け、月曜、木曜(祝日を除く)10時〜15時まで相談を受け付ける体制は発足当時と変わらない。フリーコールの専用電話番号(0120・654874=ろうごしんぱいなし)も同様だ。


増える男性相談者

 相談者は首都圏や関西、中部圏など大都市圏に多いが、全都道府県から寄せられており、さすがに件数は少ないもののアメリカなど海外在住日本人から日本で一人暮らしをする母親の異変を心配する電話なども数件ある。

 相談者は7割近くが女性だが、最近は着実に男性の割合が増えてる。年齢を見ると80〜85歳がもっとも多く、70歳以上で8割を占め、高齢者同士、あるいは認知症の人同士が介護する〝老老介護〟や〝認認介護〟など超高齢社会を反映した厳しい介護の実態もうかがえる。

 相談内容で多いのは、介護や対応方法について助言を求めるものが4人に1人ともっとも多く、次いで励ましや慰めなど相談者自身が精神的支援を求めるもの、認知症についての説明を聞くものと続いている。

 そのほか医療機関の紹介や人間関係の調整についての助言を求める内容も目立つ。

相談事例に共感

 具体的な相談事例は、「認知症110番」の元相談員で、長らく大妻女子大教授(介護福祉学 )を務めた是枝祥子さんによる「新時代」好評連載中の「認知症110番(Q&A)」で見ることができる(バックナンバー全74回を財団ホームページhttp://www.mainichi.co.jp/ninchishou/に掲載)。

 詳細はそちらに譲るが、遠い古里でひとり暮らしをする母親に認知症が目立ち始め、母の家で世話するか、施設に入所させるかで悩む東京の男性からの相談などは、「あっ、これは私」と共感する人も多いだろう(「新時代」71号=2012年1月1日発行)。

 この相談では、「一人で抱え込まないように」「介護サービスを適切に活用し、あなたの笑顔をお母様に見せることが良い」と是枝さんはアドバイスしている。

具体的な質問増加

 開設当初は110番の存在が十分知られていなかったり、相談希望者自体も今ほどは多くなかった。変わってきたのは2000年の介護保険導入と04年に厚生省が用語を痴呆から認知症に改めて以降。相談件数も増えたが、一通りの知識は事前に調べた上で、「この薬を飲み続けていいのか」「こんな私は認知症ですか」と具体的に尋ねてくる相談が増えている。

 またテレビで「特発性正常圧水頭症」など治療によっては治る認知症が紹介されると、「夫はアルツハイマーと言われたが特発性正常圧水頭症ではないか」「どこに行けば特発性正常圧水頭症の専門医に診てもらえるか」などの電話が朝から多数寄せられた。

 とくにこの2年ほどは年間の相談件数も1300〜1400件で推移しており、毎回4人で対応している相談員は昼食も満足に取れないことがあるほどだ。

資格持つ23人在籍

 その相談員は開設当初からのベテラン3人を含め現在23人。介護支援専門員、介護福祉士、臨床心理士、社会福祉士、保健師などの資格を持ち、病院や施設等で働く人たちだ。いのちの電話相談員を兼ねている人もいる。

 電話がかかってくると、手の空いた人は以前の相談票を探し出し、担当者が受け答えしやすいように気を配る。その相談票を見ながら担当者は今日のポイントを聞き出す。継続の人が多いが、最近は新規の相談が目立つ。

 「介護保険導入でサービス体系が全国的に統一されたことから、相談の対応がしやすくなった」とベテランの相談員が言う。  舅や姑を嫁として介護した女性が毎回同じ時間に電話してきて、愚痴を言うことなく話をする中で今の自分を受け入れていき、二人を見送った後、その報告とこれから自分のしたいことを話す電話が最後だったという相談者もいる。

 「彼女の自分探し、生き方の模索に、この電話相談が役に立ったのでしょう」と相談員の一人が振り返る。

「その後」に心配も

 相談者が、その後どうしているかを心配する相談員も多い。相談によって問題が解決していればいいが、いつまでも一人悩んでいないか、と気になることがあるという。財団が委託を受けて武蔵野市で実施している認知症相談では相談員だけでなく地元の在宅介護支援センタースタッフも面談に同席しており、必要に応じて具体的な支援につなげるルートができている。このようなシステムが少しずつ全国の自治体に広がっていくと、認知症の早期発見と治療につながっていくのだが。

順天堂大と提携

 当財団が学校法人順天堂と提携し実施している医師による「認知症相談室」は前項で紹介した〝次につなげる〟という課題への一つの回答である。

 相談の仕組みは、最初から医師の相談を希望してくるケースと、相談員が「認知症相談室」につないだ方がいいと判断したものを、月2回の相談日に先着順で予約を入れる。相談希望者は指定された相談時間に順天堂大学医学部精神医学教室(新井平伊教授)で待機する医師(大沼徹・先任准教授、黄田常嘉准教授)に電話を入れて相談する。

 同相談室は10年6月に開設し、1周年を迎えたのを機に、担当医師や電話相談員に集まっていただき、相談内容について分析した。それによると薬物療法に関する相談が過半数を占め、次いで認知症の症状に関する相談、さらに正常圧水頭症に関する相談と主治医との関係に関する相談が続く。病院等で主治医に直接聞きたいが相談しにくい現状も浮き彫りになっている。

相談記録票員
データベース化

 1万8000件の相談記録を現在はB4サイズの記録票に手書きで残しているが、それを分析しやすいようにデジタル化しデータベースの構築を財団は計画している。それが実現すれば相談者がどのような悩みを抱え、どんなアドバイスが有効なのかということが一目瞭然となる。データは公開し、調査研究の材料となり、また認知症相談ガイドブックのような本を作る際のデータにもなりそうだ。データ化に当たっては相談者のその後を尋ねる追跡調査も必要になってくる。

2012年8月