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認知症予防シンポ 松本会場に500人

「まず患者の心理解」
--長野赤十字病院神経内科部長 矢彦沢裕之さん基調講演

 認知症の対応や予防について考える「認知症予防シンポジウム・長野〜認知症と向き合う」=公益財団法人認知症予防財団、毎日新聞社、信濃毎日新聞社主催、アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)協賛=が8月2日、長野県松本市のキッセイ文化ホールで開かれました。県民500人が専門家の基調講演や映画監督の特別講演、パネルディスカッションに耳を傾けました。

知っておきたい認知症の種類と治療
基調講演する矢彦沢裕之・長野赤十字病院神経内科部長

 認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が低下し、社会生活に支障をきたすようになった状態を言います。75歳以上では5人に1人が認知症と言われます。その原因疾患で最も多いのがアルツハイマー病、そしてレビー小体型認知症、脳血管性認知症と続きます。アルツハイマー病はゆっくりと記憶力障害が増してくるのが特徴です。レビー小体型認知症は幻視・幻覚や歩行障害といったパーキンソン症状がみられます。この二つは異常なたんぱく質が脳に蓄積し神経細胞を壊す病気です。脳血管性認知症は脳梗塞(こうそく)など突然発症するのが特徴です。

 認知症の症状には、大脳の機能の一部が失われて起こる中核症状(記憶障害、失認、失行など)と、環境や対人関係、健康状態などが誘因となって起こる周辺症状があります。周辺症状はBPSD(問題行動)と呼ばれ、物取られ妄想や徘徊(はいかい)、暴言など介護者が非常に困るものです。

 認知症そのものは治癒するものではありませんが、中核症状を軽くする四つの薬剤が認可されており、早期から服用することが勧められます。周辺症状の治療には、誘因となっている環境や対人関係の改善が重要です。そのためにはまず患者さんの気持ちを理解しましょう。病気のごく早期から、記憶障害からくる強い不安の中で生活していること、さらに焦燥・怒りといった感情への配慮が必要です。傷ついた心は容易に問題行動を引き起こしてしまいます。

認知症ケアの鉄則

 失われた能力あきらめる
 真実や正論突き付けない
 失敗したことに触れない

 認知症ケアの鉄則は(1)失われた能力はあきらめる(2)真実や正論を突き付けない(3)物忘れやそれに伴う失敗には触れないこと、です。過ちを指摘し正そうとしても無駄です。「困っているときに怒る怖い人」という思いだけを残します。いったん全てを受け入れて、患者さんのプライドを尊重した対応をしましょう。笑顔で、できたこと、よかったことをどんどん誉めることが大切です。介護する側にも達成感が生まれます。

 周辺症状が出たときは、なぜそうなったのかメッセージを読み取ることです。介護者自身が問題になっていないか振り返り、患者さんがほっと安心できる環境を作ることで周辺症状は落ち着いていきます。

 認知症も、生活習慣病の治療や、運動や食事などの生活スタイルの改善である程度は予防できます。しかし、それでもなるときはなるのが認知症なのかもしれません。

 やひこざわ・ひろゆき 長野赤十字病院神経内科部長、医学博士。1962年長野県塩尻市生まれ。信州大学医学部卒。自治医科大学付属病院、都立病院などで研修後、神経内科医を志し信州大学医学部第三内科に入局。ノースウェスタン大学(米国シカゴ)研究員、小諸厚生総合病院神経内科医長を経て、2001年より現職。日本神経学会認定専門医、日本認知症学会専門医。

2012年10月