パネルディスカッション出席者
勝田 登志子氏(認知症の人と家族の会本部副代表、富山県支部事務局長)
惣万 佳代子氏(NPO法人デイサービスこのゆびとーまれ理事長)
渡辺 多恵氏 (富山県医師会理事、小矢部大家病院長)
◇コーディネーター
岩本 聡氏(北日本新聞社論説委員長)
岩本聡さん 質問に答える形で進めます。まず認知症は遺伝するのか、という質問です。
渡辺多恵さん 数%から一番多くて十何%まで遺伝するという報告があります。アルツハイマー型認知症はほとんど遺伝しないが、親子は体質が似る。認知症の原因になる高血圧、糖尿病になりやすい。
岩本さん 前頭葉側頭葉型認知症(ピック病)は介護ストレスが大きい。症例が少なく何を参考にしていいか戸惑っている、という質問が会場から寄せられました。
渡辺さん ほとんど認知症は物忘れから始まるが、ピック病は性格の変化から来ます。高速道路を逆走したり、万引きしたり、奥さんに迫ったり。実際、それで離婚したケースもあります。どの特養にも1〜2人ピック病患者がいます。こういう病気だとわかれば、それなりに対応していけます。
勝田登志子さん ピック病は介護が大変です。家族だけの介護では無理なのに、デイサービスで断られるのが現状です。ピック病患者は知的部分が落ちない、きちっと理屈を言う。時には、死にたくなる、と言う。目が離せない。
惣万佳代子さん ピック病の場合、何が厳しいかというと、性の問題があります。奥さんも嫌がるが、私たち施設の女性職員も迫られる。私ぐらいの年齢になったら許してもいいですが(笑い)若い子はびっくりします。ショートステイもなかなか受け入れてくれない。
勝田さん 勤め人がピック病になると、社会常識が取り払われるので万引きしたりします。それが分かった時、会社側はその店に「何を取っても後から金を払う」と申し出て解決した。ピック病を公表することで周囲の協力を得ながら対応しないとうまくいかない。
岩本さん 次に、97歳の母が同じ質問や話を繰り返す。黙って聞くか、注意する方がいいのか。
勝田さん 同じことを繰り返すのは、さっき言ったことが覚えられないからです。1日に10回、20回も繰り返しても、お母さんにとって初めてのことなのです。家族の方も同じ答えを繰り返せばいい。病気ですからきちっと対応してください。もう一つ、大事なことはしっかり話を聞いているという態度を示すこと。いい加減な態度や怒ったりすると、お母さんはもうこの人と話したくないと思ってしまう。
惣万さん 先日、ある講演会場で70歳ぐらいの男性が「母ちゃんが同じことを言うのでバべ(注・怒るの意)つけてやった」と言う。私が答えたのは、バべつけても認知症治りません。バべつけて治るなら、私たち施設職員は治るまでそうしますよ(笑い)。飲み屋で飲んべーを見てごらん。同じことばっかり言っている(笑い)
岩本さん 認知症の母は調子の良い時と悪い時のギャップがありすぎるという質問です。
勝田さん 体の調子は人それぞれのリズムがあるので、それをつかんでおくこと。それから服用する薬が変わった時、変化があるので、その場合はすぐ医者に伝える。突然暴力を振るわれると介護者は不安になる。ケアマネジャーや自分の命の危険を感じる時は警察に連絡してください。
岩本さん 介護している側のケアについてはどうですか。
勝田さん 核家族時代なので、親と離れている人はお金で支援してください。何より主たる介護者が元気でいることが大事です。そのために介護サービスを十分使ってください。ショートステイは最低1週間使ってほしい。悩みを抱える介護者が本音で語り合える場も必要です。
惣万さん 動物は子育てはするが、親の介護をしない。でも、人間はどこかの年代で親の介護をする宿命を持っている。家族がそれを全部するのではなく、社会的サービスを目いっぱい使った方がケアが長持ちできます。
渡辺さん 理想の介護を求めないで、自分らしい介護でいい。
岩本さん 最後に一言あれば。
勝田さん 認知症は恥ずかしい病気でない。みんなが支えてくれるなら認知症になってもいいという富山を作りたい。
惣万さん 制度上のことで不満がある。共同生活のグループホームでデイサービスを受け入れよというのはおかしい。精神科病棟の空床に認知症患者を入れるのはおかしい。若年性認知症の人は、高齢者だけのデイサービスに通いたくない、働きたい、社会に貢献したい、と言っている。それらを国にほえて行こうと思います。
渡辺さん 医師の側もこの20年間、認知症の知識が深化してきた。みなさん、あきらめずに何でも医師に言ってください。
2013年8月