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どうずる認知症ドライバー

富山で集い−−電話相談員ら講演

 認知症の高齢者が増える中で、高速道路を逆走したり通行人をはねるなど認知症高齢者の運転問題が浮上している。富山県小矢部市で開催された「認知症を知る集い」に講師として参加した認知症予防財団の電話相談員、中田京子さんに集いの内容を報告してもらった。

富山県小矢部市で開かれた「認知症を知る集い」で講演する電話相談員の中田京子さん(中央)

 3月22日に富山県小矢部市主催で『認知症サポーター養成講座「認知症を知る集い」』が開催されました。養成講座は平成20年から小矢部市が取り組む事業で今回は“認知症の基礎知識と運転への影響”がテーマ。電話相談「認知症110番」を開設している認知症予防財団からは講師として私(中田)が参加しました。この養成講座は厚生労働省の認知症サポーターキャラバン事業を受けて、小矢部市は“認知症になっても安心して暮らせるまちづくり”に取り組んでいます。認知症の正しい理解のもと、本人と家族に対して市民の協力と支援を得ることを目的に実施し、3月21日現在の認知症サポーターは延べ6993人となっています。養成講座受講者には、認知症サポーターの印としてオレンジリングが配られます。

 小矢部市は、雪景色の立山連峰が見渡せる美しい地で、屋根瓦の立派な家々が続きます。山から粘土質の良い土が採取できることで瓦工場が多く、その恩恵を受けてのことと思います。事務局の健康福祉課は、企画・準備から当日まで熱心でパワフルに取り組まれていて、受講生の方々もそれを受けて熱心に聞いていました。会場は、クロスランドおやべセレナホール(350名収容)で、通常はコンサートに使用しているという、りっぱなホールでした。まずは、事務局の皆さんの心温まる歓待と受講生の方々の認知症サポーターへの関心の高さに感動しました。

 講座は2部に分かれ、第1部のタイトルは「高齢者の運転を考える」です。まずは、小矢部警察署の竹内靖地域課長より、小矢部市の交通事故は、65歳以上の人の歩行中の事故が多く、特に、高齢者の運転する車が高齢者をはねるケースが目立ち、夜間歩行時の反射材の着用、安全確認の重要性の話がありました。

 続いて、JAF Mateの鳥塚俊洋編集長の講義は、車に設置されたドライブレコーダーに残っている高齢者の逆走運転の映像から始まりました。2009年から運転免許更新時に、75歳以上の人には認知症のスクリーニング検査が義務付けられました。しかし、それで発見されるのは一部であり、高齢者の事故は減っていません。

 第2部の講師でもある鳥取大学医学部教授の浦上克哉先生は、高齢者に認知症の傾向が見られる時は、家族は運転を続けさせていいかどうかよく考えた方がいいと言います。どのような傾向がそれにあたるのでしょうか。浦上先生は㈰駐車や車庫入れに時間がかかる㈪車のボディーに記憶のない傷やヘコミがある㈫運転中無口になる(同時に二つのことができないためです)㈬車の鍵の置き場がわからない㈭右と左のウインカーを間違える㈮いつも走っている道なのに迷ってしまう−−等を挙げました。多くの人が冷静に判断して免許証を自主返納しているそうです。また、長く運転を続けるためには、何か異変があると感じた時に、早めに診断を受けることが重要というお話でした。

 続いて、「認知症110番」での相談の中には運転についてのものがあり、その傾向について私が話をしました。

 相談内容には、大きく分けて三つの傾向があります。一つは、運転の様子に変化、例えば、路肩をすって走る、駐車した場所を忘れてしまう、事故が多くなった等のことから認知症を疑っているとの相談です。二つ目は、認知症であるが、本人に自覚がなく運転を止めないため危険であり、どのように説得すればよいかという対応についてです。

 三つ目は、認知症の診断があり運転を止める必要があるが、本人の抵抗があるという相談です。これは、当人は運転が好きで生きがいであるという迷い、住んでいる場所が運転必須の状況(買い物や通院等も車が必要な地区に住んでいる)で、運転を止めると生活に支障が出てくるため、どうすれば良いかという相談です。とくに三つ目は、早期発見が進めば進むほど増えている相談であることも付け加え、どの傾向も簡単には結論の出ない課題であることを話しました。

 第2部の浦上先生の特別講演は、タイトルが「今からできる認知症予防」でした。認知症は現在462万人(2年前は200万人)、認知症予備軍が400万人いて、2〜3年後には認知症の人が1000万人を超える可能性があり、深刻な事態となっています。

 対策として、認知症の発症を予防するべく研究がなされ、近い将来は予防できる可能性が高いそうです。まずは、認知症の早期発見が重要であり、浦上先生は、認知症検診と予防のためにタッチパネル式のコンピューターで簡単に検査が出来るものを作りました。これを使っての取り組みで、鳥取県琴浦町は介護保険の費用を約7800万円削減するという成果を出しました。

 この取り組みは、検査で認知症の疑いのある人は専門医に紹介し、認知症予備軍の人は認知症予防教室に参加します。予防教室は、予備軍の人にとって効果のある“知的活動”“運動”“コミュニケーション”を取り入れたものです。このような試みは、全国各地区に広まりつつあり、小矢部市でも取り組んでほしいと強調されていました。

 講座の中で、運転にまつわる深刻な実情、本人や家族の悩み、急激に増加する認知症の深刻さが語られ、その後に、浦上先生の予防ができるとの可能性が示され、感慨深い、有意義な内容になりました。また、このような内容の講座も全国に普及するとよいと感じています。

2014年4月