ドキュメンタリー、感動ドラマ、話題作まで 認知症映画 続々

 認知症の人の出てくる映画の公開・上映が今年に入って相次いでいる。ドキュメンタリーから涙を誘う感動ドラマ、そしてアカデミー賞主演女優賞の話題作まで多彩だ。中には市民が「認知症映画の名作」として最近の作品を鑑賞するイベントも広がり始め、認知症の人の出てくる作品は映画の一分野としてすっかり市民になじんだ形だ。

パーソナル・ソング

 昨年12月公開のドキュメンタリー映画「パーソナル・ソング」は認知症の人がヘッドホンから流れる音楽に突然目覚めたように反応する姿が衝撃的で、認知症と音楽療法の相性の良さを改めて示した形。現在も全国各地で順次公開中のほか、このほどDVDも発売され、5月18日には参議院議員会館内で特別上映会が開催されるなど静かなブームを巻き起こしている。

おばあちゃんの夢中恋人

 一方、「台湾シネマ・コレクション2015」(東京)でゴールデンウィーク中に10回上映された「おばあちゃんの夢中恋人」は、「泣いて、笑って」を映画作りの基本に据えている日本の北村豊晴監督が台湾で撮ったコメディー作品。映画脚本家の祖父と女優だった祖母の美男美女のカップルが、若い時に事情があって離れ離れになり、行方不明になった相手を年老いてからもまた同じように捜し求める。それが映画の進行ではほぼ同時に起きるという巧みな構成により、二人の運命的な結びつきが強調され、観客の涙腺を大いに刺激するのである。

 最初の行方不明は愛する夫のためのある行為から、そして二度目は認知症の妻の徘徊がきっかけだった。夫は自分の顔も名前も忘れてしまった妻を思い出の場所で見付け出し、さらには二人だけしか知らない会話を妻に思い出させることで妻は徐々に夫の記憶も取り戻していく。

 すべての映画が必ずしもハッピーエンドである必要はないが、できれば認知症の人が出てくる作品は、時にこんなすてきな終わり方があってほしい。それは認知症の進み方が意図的にスピードアップされている作品が多いからである。それでなくとも認知症になったら本人も家族ももうおしまいという誤解が多すぎる。認知症になっても心の持ちようでいくらでも安心して幸せに暮らすことは可能だ。その認知症の実際の姿を脚本の中へ的確に取り入れた北村監督は単なるラブコメの人とは思えない。

 娯楽映画としても素晴らしく、さらに認知症の人や家族の「応援歌」としても傑出しているこの作品も「パーソナル・ソング」のようにDVD化されることを希望したい。

アリスのままで

 6月27日に公開される「アリスのままで」は主演のジュリアン・ムーアが今年のアカデミー賞主演女優賞に輝いたので、その迫真の演技力と合わせ早くも注目を集めている。

 作品は若年性アルツハイマーの女性が記憶を失っていく様子を描いたベストセラー小説が原作。ニューヨークのコロンビア大学教授の言語学者アリス(50歳)は、講義中に言葉が思い出せなくなる。他の日にはジョギング中に帰り道がわからなくなってショックを受ける。家族には黙ったまま受けた医師の診断は若年性アルツハイマー。家族の協力を得ながら、なお教職にとどまろうとするが、アリスの病状は進行する。ある日、アリスは記憶が薄れていく前に自分のパソコンに残した自分あてのビデオメッセージを発見する。その意味を十分には理解しないまま、自分が自分でいられるためと信じて、ビデオの中の自分が指示することを実行しようとするが……。

 泣かせどころもたっぷりで、感動作であることは間違いない。ジュリアン・ムーアの演技も素晴らしかった。しかし試写を見た人の反応は様々だ。

 ある認知症の専門医はこう話す。「病気の進行が10倍は早すぎる。家族の支え合いも十分描いたとは言えない。時間をかけて家族は変わっていく。そこに意味があるのだが」と手厳しい。

 「アルツハイマーの症状を描いた映画」というのは映画監督だ。同業者であるだけに「監督の力量の問題」とこちらも採点が厳しい。

 別の団体役員は「悲惨な描かれ方なので、認知症にはなりたくないと思ってしまうのでは」と観客の反応を心配する。

 共通するのは、ハリウッド作品なのでどうしても劇的に描こうとするのではという分析だ。とはいえ認知症の正しい姿を広く伝えていきたいという財団の基本的な考え方からすると、お勧めする作品とは言い難い。もちろん娯楽作品として観客が楽しまれるのはまた別の問題だ。理解ある夫として妻を支えようと努める夫役のアレック・ボールドウィンやアリスが最も心配した女優志望の次女を魅力的に演じたクリステン・スチュワートらの演技は主役に勝るとも劣らない演技だったのだから。

2015年6月