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最高裁判決「徘徊事故 認知症家族に責任なし」

 認知症のお年寄りの徘徊(はいかい)事故をめぐり、家族に賠償責任はないとした3月1日の最高裁判決。その意義と課題について、法律とケアに詳しい公益社団法人あい権利擁護支援ネット理事の池田惠利子さんと、介護現場デイサービス「このゆびとーまれ」代表の惣万佳代子さんに寄稿してもらった。

法律の専門家 「地域社会で支え合う体制を」

 池田さんは、今回の判決によって家族の責任が将来にわたり免責されたわけではないとする一方、認知症の高齢者を閉じ込めないためには、高齢者のトラブルの防止と生じた被害の補償をどうするのかについても、社会全体で考えておくべきだと主張する。また免責の範囲を広げるべきだと、本判決が述べていることに着目し、認知症の介護は関係する者が一丸となって地域で取り組むべきことだと訴える。

介護現場の思い 「安心して外出できる社会へ」

 惣万さんは認知症の人の目線に添い「なぜ歩きたくなるのか」と考える。元の職場や実家など自分の愛した町や人に会いに行くのだと想像し、それを言葉で説明できないだけだと理解する。代表を務める施設では鍵をかけていない。拘束よりは安心して外出できる社会づくりが必要と考える。監督義務者の責任を自覚しつつ、認知症の人がハツラツとしていた20年前のように自由に歩き回ってほしいと願う。

<判決要旨>

  • 同居の夫婦だからといって直ちに民法が定める認知症の人の監督義務者にあたるとはいえない
  • 監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があれば、事実上の監督義務者として責任を問われることがある。事情を総合考慮して判断すべきだ
  • 男性の家族に賠償責任はない

<事故の概要>

 2007年に愛知県で認知症の男性(当時91歳)が1人で外出して列車にはねられ死亡し、JR東海が「列車に遅れが出た」として男性の妻と長男に約720万円の支払いを求めた。名古屋地裁は13年8月、長男を事実上の監督責任者と判断し、妻の責任も認めて2人に全額の支払いを命じた。名古屋高裁は14年4月、長男の監督義務は否定したが、「同居する妻には夫婦としての協力扶助義務があり、監督義務を負う」として、妻に約360万円の賠償を命じた。

2016年4月