今回の最高裁判所判決を契機として、「認知症の人を閉じ込めるのではなく、住み慣れた地域で暮らし続けられるようにする」には、認知症高齢者のトラブルの防止とそこで生じた被害の補償をどうするのかという課題についても、社会全体で考えるべきでしょう。たとえば認知症高齢者が自転車や自動車を運転して誰かにけがをさせてしまった場合、被害者が何ら救済を受けられなくなる可能性についても考えなくてはなりません。そのために「監督義務者の責任」の制度があるのです。今回の判決では同居の夫婦だからといってただちに監督義務者になるわけではないとされましたが、だからと言って家族の責任は将来にわたって免責されたわけではないのです。
判決では、監督義務者について以下の六要素という一定の基準が示されました。
①その者自身の生活状況や心身の状況など ②精神障害者との親族関係の有無・濃淡 ③同居の有無その他の日常的な接触の程度 ④精神障害者の財産管理への関与の状況等その者と精神障害者との関わりの実情 ⑤精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容 ⑥監護や介護の実態等の諸事情を総合判断して、監督責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かによって監督責任を負う者が判断される。
これで賠償責任を負わない家族の範囲が広がるとしても、これでは具体的に何をすれば監督義務を引き受けたことになり、その者はどのような介護をしたら免責されるのか、不透明です。一生懸命介護するほど重い責任を問われるのではと、心配になる方もいるでしょう。
地域では独り暮らしの認知症の人も増えています。平成26年度認知症と見られる人の鉄道事故29件、一方、高齢ドライバーの死亡事故471件のうち181件が認知症との関連が疑われます。認知症の人は被害者にも加害者にもなりうる危険がある。しかしそうであっても、「閉じ込めればよい」という社会にはしてはいけない。
こう考えていくと、認知症介護の問題は家族だけの問題ではなく、公的サービスの利用も含め、親族や支援者が連携し協力し合って地域の体制構築をしていくことが重要になります。これらに関与し役割を担っていくことがイコール監督義務者ということではなく、介護と監督の引き受けは別に考えるべきと判決も言っています。
監督義務を負う者についてはなるべく客観的に決め、責任範囲についても、認知症高齢者本人としっかり向き合うことについて「意思を尊重し、かつその心身の状態及び生活の状況に配慮した注意義務をもってその責任を果たしていれば、免責の範囲を広げて適用されてしかるべき」と、本判決は述べていて、勇気づけられます。
このことは、「地域社会で支える」体制整備という面で注目すべきことであり、認知症介護に関係する者が一丸となって地域で取り組むべきことだと考えられます。
2016年4月