福祉避難所の重要性 日本大学危機管理学部 鈴木秀洋准教授が寄稿

 東日本大震災や先の熊本地震では、認知症の人を含めた「要配慮者」らが安心して避難できる「福祉避難所」の役割の大切さが再認識された。しかし、震災時の混乱や運営体制の不備などから、十分に活用されたとは言い難い。行政の危機管理に詳しい鈴木秀洋・日本大学危機管理学部准教授に寄稿してもらった。

すずき・ひでひろ 日本大学危機管理学部准教授。元文京区危機管理課長。行政法・地方自治法・災害と法専門。警察政策学会、日本集団災害医学会所属。法務博士(専門職)。保育士(神奈川)。共著「これからの自治体職員のための実践コンプライアンス」(第一法規)等。自らも認知症の家族を抱える。

熊本地震 十分活用されず

 東日本大震災では、認知症の人の病状悪化、排泄の問題、不穏、徘徊、そして見守る家族の疲弊等が報告された。

 そして、認知症の人を含めた「要配慮者」らが避難できる「福祉避難所」の重要性が再認識された(平成26年10月時点で791自治体が7647の民間の福祉施設と協定締結)。

 果たして、4月に発生した熊本地震では、福祉避難所は機能したのか。

 熊本市は、平成24年度から176の民間の福祉施設を震災時「福祉避難所」とし、1700人の受け入れを想定していた。また、熊本県も同年に、「福祉避難所」等に災害派遣福祉チーム「DCAT」(Disaster Care Assistance Team)を市町村の依頼がなくとも派遣するとの制度設計を行っていた(183施設から延べ640人登録)。そして内閣府は、平成28年3月に、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を定めていた。このような時系列の中で熊本地震は起きた。

 「福祉避難所自体が被災してしまって開設できなかった」、「職員が被災してしまい、支援者が不足した」、「対象以外の地域の人が避難してきて本来受け入れるべき人を受け入れられなかった」、このような理由により福祉避難所が期待された役割を果たし得なかったようだ(発災直後の4月15日・16日には5人から12人程度の受け入れのみとの報道)。

 しかし、このような福祉避難所自体の被災や支援者職員の被災は当初から予想されたことではないのか。また、福祉避難所の名称・場所しか事前に情報提供していなければ、福祉避難所間で人の集まり具合に大きな偏りが生じることも当然予想されたことではないのか。

 確かに、協定を結ぶ、登録を行う、ガイドラインを整備するという「形式」上の対策は進められた(この点熊本の対策は他の自治体に比して先進である)。しかし、現実の命を救う分水嶺は、この「形式」の先の取組みではないのか。「形式」を実際に動かしてみて、改善点を見つけて、再度動かすというサイクルを繰り返すことこそ行政がなすべきことではないのか。

提言① 災害派遣福祉チームの支援 事前に組み込んで

熊本地震の避難所で生活するお年寄りに声をかけるボランティアの人たち=熊本県南阿蘇村で4月(毎日新聞から)

 以下、具体的な認知症対応を念頭に、提言を行いたい。

 まず、福祉避難所の確保という観点からは、地域全体が被災する場合を想定して広域的かつ多様な福祉避難所を相当数確保しておくべきである。

 次に、福祉避難所の運営という観点から2つ提言する。

 一つには、具体的にDCATの支援を事前に組み込んでおくことである。すなわち、福祉避難所は、通常ケア対象者を既に相当数抱えている。被災により支援側の人員が不足する一方で新たなケア対象者を受け入れることになる。

 発災後必要に応じて行政や他機関にヘルプ要請を出すのではなく、事前に(物的・人的資源の減少の想定と事業継続計画=BCP=に基づき)DCATに補ってもらうべき質と量を開示しておく。それによってDCATが迅速かつ的確に支援に入り得る。ある福祉避難所にはこのDCATが一両日中に支援に入るというマッチングがなされていれば、平時から様々な想定訓練ができよう。

提言② 事前に選んだ避難所へ発生時から避難可能に

 二つ目として、発災時から事前に選択した福祉避難所に避難できるようにすべきである。認知症対応としては、急激な環境変化を最小にする必要がある。また、認知症の人にとって、一般避難所で我慢し生活できる限界は3日といわれる(排泄の問題は初日から難しい)。とするならば、「一般避難所に集合させ、そこで申請を受け、一義的で明確な基準もない中で判定作業を行い再度福祉避難所に移動させる」のではなく、「当初から事前に選択した認知症に配慮ある福祉避難所という環境の下で生活を確保」することが望ましい。自らが行くことになる福祉避難所が事前にわかれば、発災時の混乱と病状悪化を防ぐことができよう。

 そして、国は自治体がDCATチームを創設し被災地に派遣するシステム(訓練もセット)(お互い様システムとでも呼べよう)を構築できるような法制度作りを急ぐべきである。

 終わりに、平時にできないことは発災時にできない。発災時のファインプレーは、むしろ公助としての行政対応のエラーであり、平時の不作為の証明である。

 次の震災時こそ、要配慮者の命と関連死を「福祉避難所」で救いたい。そのためのシミュレーションを平時に徹底したい。

【福祉避難所】災害時に高齢者や障害者、妊婦、乳幼児ら特別な配慮が必要な被災者を受け入れる避難所。自治体が災害救助法に基づき民間の福祉施設や公共施設をあらかじめ指定し、災害時に自治体の要請で開設される。要援護者全員が入るわけではないが、ベッドや医薬品、介護・衛生用品、支援スタッフを備える。震災関連死が相次いだ1995年の阪神大震災をきっかけに必要性が指摘され、制度化された。

2016年8月